様々なコミュニケーション

聞こえの補助や、コミュニケーションの手段は、様々な方法が確立されています。お子さんにあった方法を見つけましょう。

手話をする女性・筆談をで会話している医師と子供

補聴器

補聴器は、周りの音を増幅して「聞こえ」を補う医療機器です。普通の大きさで話された声を聞き取りやすくサポートするための機器で、単に音を大きくする拡声器のようなものではありません。音を増幅する大きさや形状なども様々です。お子さんの言語・コミュニケーションの発達を助けるためにも、できるだけ早くお子さんに合った補聴器をつけるようにしましょう。

補聴器の装着イメージ

補聴器のフィッティングについて

視力に応じて一つのレンズが決まるメガネと異なり、補聴器は様々な音が出せるため複数の聴力に対応できます。補聴器を一人ひとりの聴力や生活に合わせて調整することをフィッティング(適合)と言います。音には大きさだけでなく高さ(お腹に響くような低い音やキンキンした高い音)があります。お子さんの耳は高さごとに聞こえる大きさ(聴力)が異なっています。どの高さの音をどの程度増幅するかや、補聴器のマイクから入る大きすぎる音をどのくらいで抑えるかなど細かい調整が必要です。
フィッティングはコンピュータを用いて行うことがほとんどです。補聴器の専門家に行ってもらうようにしましょう。

乳幼児に補聴器をつけるとき

補聴器は一人ひとりの聞こえの状態(聴力)に合わせて調整するものですが、幼児期は聴力検査も子どもの反応を見て判断することになりますから、厳密なフィッティングはまだできません。初めは、小さめの音から設定して、専門家に相談しながら少しずつ最適な設定に調整していきましょう。声が聞こえているか、うるさがってはいないかなどの普段の様子を観察しておくと、フィッティングの際に役立ちます。 "補聴器をはじめてつけた時がその子の耳が誕生したとき"ということばもあるくらいです。楽しみながらいろんな音に触れさせてあげましょう。

ハウリング(ピーピー音)について

補聴器を使っていると、時々ピーという音が聞こえることがあります。この音をハウリングと言います。この音は、補聴器で増幅された音が耳から漏れて補聴器のマイクに戻ってしまうことから生じます。ハウリングが起きると補聴器は期待した機能を発揮できません。耳から音が漏れないように耳栓を入れ直してあげましょう。
それでもハウリングを繰り返すときは専門家に相談しましょう。

補聴器の管理と電池

補聴器は電気的に音を増幅する精密機械ですから湿気を嫌います。お風呂や顔を洗う時などは補聴器を外すようにしましょう。睡眠時も補聴器は外します。乾いた布などでしっかり拭いて乾燥剤を入れた箱などに保管するといいでしょう。
また、補聴器に使われている電池は徐々に電気が弱くなるのではなく、突然切れるタイプのものが多いです。電池を交換する日をカレンダーに書き入れておくと便利です。

人工内耳

人工内耳は人工臓器のひとつです。重度難聴のため補聴器の装用効果が不十分であった場合に聴覚を獲得するための唯一の方法です。また、その効果には個人差があり、手術をしてもすぐに聞こえるようになるわけではありません。術後にしっかりと訓練を行うことで、徐々に言葉が聞き取れるようになります。

人工内耳を装着した女の子

乳幼児の難聴と人工内耳について

乳幼児の難聴が判明した場合、お子さんの発達を促すため、早期に補聴器をつけたり、療育機関に通園したりすることが大切です。そのうえで、人工内耳の使用がお子さんに必要かを検討していきましょう。

人工内耳の仕組み

感音難聴は、内耳に入った音の振動を電気信号に変えることができません。
人工内耳は音を電気信号に変えて、埋め込んだ電極から電気信号を送ることで音を聞き取れるようにする装置です。人工内耳は体内に埋め込む装置(インプラント)と体外に装用するプロセッサーに分かれています。体外のプロセッサーではマイクにより音を集め蝸牛内の装置に伝えるための電気信号に変換し、無線で体内の装置(インプラント)に送ります。無線で受け取られた音(電気信号)は蝸牛内の電極に伝わり、直接聴神経を刺激して脳に伝えます。

手術後の訓練

人工内耳の手術をしてから2~3週間後に初めてプロセッサーを装着し、微弱な電流を流します。これにより小さな音が初めて聞こえるようになります。これを「音入れ」といいます。音入れによって、人工内耳を介して、音や声が聞こえるようになりますが、はじめは慣れないため違和感を感じることが多くあります。そのため、定期的に言語聴覚士とともにマッピング(聞こえ方の調整)や訓練を行って、人工内耳の音に慣れていくことが必要です。小さなお子さんだと嫌がることもありますので、学校など子どもに関わるすべての人達でサポートしていくことが大切です。

手話

手話は、聞こえにくい・聞こえない人たちの言語です。
手話は、生まれたときから聞こえない人だけでなく、聞こえにくい人、大人になってから聞こえなくなった人など、様々な人がそれぞれの生活に馴染んだ使い方をしています。手話を言語として深く学べば、日本語や英語や仏語と同じように手話で様々な勉強や研究を行うこともできます。手話は聞こえにくい・聞こえない子どもたちを、日本語を知らない乳児期から、「見える言葉」としてしっかり支え、物事の理解を育ててくれます。

手話で会話をする2人の女の子

乳幼児と手話

手話は「物の形や動き、様子をそのまま表す」ことができる「見える言葉」です。聞こえにくい・聞こえないお子さんには、身振りやジェスチャーを使って常に「見える」話しかけをしてあげましょう。聞こえる子は胎児のときから、お母さんの声を聴いていると言われています。聞こえにくい・聞こえない子どもには、早い時期から「見える」話しかけをすることでご家族との関係が深まり、物事の理解を育むことができます。人工内耳の手術を検討している場合も、手術までの間に手話でのコミュニケーションをとることで、ことばの種となる"理解"が育ちます。

難聴児の家族と手話

聞こえるご家族が手話を学ぶのはお子さんに教えるためではなく、お子さんと会話をするためです。手話を習得するには、ご家族は地域の手話サークルや手話講習会などを利用し、お子さんは療育・教育機関やろう者のイベントなどに参加するのが良いでしょう。まわりに手話の環境があれば、乳幼児から手話を身につけることができます。最近では、テレビ番組で手話つきの物語や手話のマンガなどもありますし、インターネットで手話動画の配信も多数あります。また、ロールモデルとなる手話で生活している聞こえない子どもや大人と交流することもおすすめです。

手話のご紹介

お子さんとのコミュニケーションに活用できる手話をご紹介します。手話の顔の動きには感情と文法の2種類があります。まずは感情の表現をはっきり見せることから始めましょう。嬉しいときは笑顔、注意するときは少し怖い顔などです。聞こえにくい・聞こえない子どもは、相手の表情を注意深く見ています。「ダメ」と言いながら笑っていると、ダメだと思いません。言葉と表情がマッチすることが大切です。

ほめるときの「いい」

手話:ほめるときの「いい」

日本語の「すごいね」や「えらいね」などの意味を含みます。小さな子どもをほめるときによく使われる手話で、親子の会話に大切な「共感」の場面でもよく使われます。

おしまい

手話:おしまい

「おしまい」は、聞こえにくい・聞こえない子どもの子育てでとても大切な言葉です。何気なく次の動作や作業に移るのではなく、「おしまい」の手話で、生活や活動の区切りがわかる(見える)ようにしてあげましょう。また、次の活動の見通しをもたせることも大切です。

東京都手話言語条例と手話に関する普及啓発

東京都では手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、手話を使用しやすい環境づくりを推進することにより、手話を必要とする方の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会を実現するため、条例を制定し、令和4年9月1日に施行しました。

東京都手話言語条例

東京都手話言語条例に関する普及啓発

東京都では、東京都手話言語条例の施行にあたり、条例や手話に対する理解の促進、手話の普及のための啓発リーフレット・ポスターを作成しました。

その他のコミュニケーション方法

乳児期はことばによらないコミュニケーションの段階です。アイコンタクト(視線)、表情、頷きや首振り、指差し、身振りなどすべてが大切なコミュニケーション手段です。
幼児期になると音声でも手話でもことばによるコミュニケーションが徐々に増えてきます。補聴器や人工内耳による聴覚の活用や手話によるコミュニケーションの他にもどんな方法があるのか、概観してみましょう。手軽で確実なコミュニケーションのためには一つの方法だけでなく様々な方法を併用したり、状況に応じて使い分けることが大事です。

筆談のイメージ

筆談

メモ用紙やホワイトボードなどに文字や図を書いてコミュニケーションを取る方法です。手話や音声でのやりとりと比べると時間はかかりますが、確実に伝えあうのには大切な手段です。また、メモ用紙などがないときに、空中にゆっくりと文字を書くことで伝わることもあります。そのような方法を空書(くうしょ又はそらがき)と言います。

読話

話し手の唇の形や動き、表情から状況を推測してことばを読み取る方法です。聴覚活用と併用できるときが最も効果的です。ですから、口の動きが見えるように話しかけることは大切です。ただし、口の動きが同じでもことばが異なる場合(例えば「たまご」と「タバコ」や「1(イチ)」と「7(シチ)」など)は混乱しやすいですし、初めて出会う知らないことばを読話だけで理解することには限界があります。

指文字

50音をすべて指の動きで表現します。話ことばのように早く表すことはできませんし、多用すると読み取りが大変です。手話と併用しながら、外来語や固有名詞、お互いが知らないことばを確認し合うときには便利です。指文字の習得はかな文字と同様で4歳後半ころから徐々にできるようになってきます。

音声認識アプリケーション

音声を即時に文字に変換してくれるアプリケーションで、スマートフォンやパソコンにインストールして用います。文字の誤変換が起こりやすいですが、即時に変換してくれるメリットは大きいです。