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平成15年10月14日

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福祉保健局総務部企画計理課
電話 03−5320−4019

東京都社会福祉審議会・第4回「これからの福祉」検討分科会の審議結果

1 開催日時

  平成15年10月14日(火)午前10時00分から正午まで

2 場所

  東京都庁 第1本庁舎 33階 特別会議室S1

3 出席者

    分科会長 高橋 紘士   立教大学コミュニティ福祉学部教授
    委員
    新村 保子
    三宅  亨
    大澤 義行
    藤井 俊郎
     
    住友生命総合研究所常務取締役
    東京都社会福祉協議会副会長
    東京都民生児童委員連合会会長
    会社顧問(元日本発条(株)副社長)
    臨時委員 白石 真澄
    武田 雅弘

    平岡 公一
      東洋大学経済学部助教授
    ベネッセコーポレーション
    シニアカンパニー本部調査室次長
    お茶の水女子大学大学院教授

4 議事

  1 挨拶
  2 資料説明
  3 委員報告
  4 意見交換
  5 その他

5 議事録

(午前10時03分 開会)

○梶原計画調整課長

 本日は、お忙しい中ご出席をいただきましてありがとうございます。
 まず、開会に先立ちまして、委員の皆様の出席につきまして報告をさせていただきます。本分科会の委員総数は12名ということでございます。そのうち、本日所用のために欠席の報告をいただいております委員の方は、野村委員、中村委員、執行委員、三浦オブザーバーでございます。したがいまして、本日出席予定の委員の方は9名となりますので、定足数に達することを報告させていただきます。
 続きまして、資料の確認でございます。皆様のお手元に配付してございます。
 資料1につきましては、前回の分科会での主な意見を踏まえた論点。
 それから、資料2につきましては、平岡委員からご提出いただきました「サービス供給体制の変容と政策形成のあり方」。
 それから資料3は、高橋分科会長からご提出いただきました「2015年の高齢者介護」ということでございます。
 なお、当審議会の議事録は、東京都のホームページに掲載され、インターネットを通じて公開されますので、申し添えます。
 それでは、分科会長、よろしくお願いします。

○高橋分科会長

 それでは、第4回になりますが、「これからの福祉」検討分科会を開催いたします。大変お忙しいところ、ありがとうございました。
 それでは、資料1についての事務局からの説明をよろしくお願いいたします。

○梶原計画調整課長

 それでは、資料1でございます。前回の分科会でのご報告及び意見を踏まえまして論点を整理したものでございます。
 まず1点目、執行委員の報告。これは、福祉サービスの利用者、あるいは消費者保護のあり方というところで、まず「措置」から「契約」へということの意義を踏まえた上で、「現在の消費者保護の実態と問題点」ということを抽出させていただきました。その上で、「福祉サービスの消費者保護をめぐる法的環境・現状と問題点」ということで、福祉サービスというところでの消費者保護、利用者保護は、2000年4月、社会福祉法が改正されて、大きく法体系が変わったわけでございますけれども、まだ現状では問題点があるという指摘でございます。
 その上で、2ページでございますけれども、福祉サービスの利用者保護のあり方ということで何点かいただいてございます。私法上の権利の不明確さ、あるいは現在の消費者契約法の限界、それから、その利用者保護のためには、より利用者の権利を擁護する内容のルールの確立が必要だということで、具体的な方向性ということで下に5点、掲げてございます。
 執行委員の報告は、この利用者保護ということでご報告をいただきました。
 次が3ページ目でございます。中村委員の報告で、「これからの地域福祉における市民ニーズとNPOの役割」ということでございます。
 大都市における福祉サービス市場ということ、これは多様性ということでございます。多様性というのは、ある意味で提供主体の多様性ということで、NPO、NGO的な視点も踏まえて、従来の社会福祉法人の中心であった、そういう福祉サービスの提供主体の多様性ということになるかと思います。
 その上で、そこに書いてございますけれども、「『措置』から『競い合い』への移行と『利用者本位の福祉』」ということでございます。福祉サービス市場というのは、サービス評価、規制緩和等々、さまざまな前提条件を踏まえた上で、こういう競い合いへの移行の条件を考えていく必要があるだろう。その上で、NPO、NGOが大きな役割を果たす。これは地域社会、あるいはインフォーマルなセクターとの関係が大きなポイントになるのではないかと思います。
 その上で、NPO、NGOが単に供給者としての役割にとどまるものではなくて、アドボカシー的役割を担っていくことが重要であろう。幾つかのNPO、NGOの役割ということでご指摘をいただきました。貧困等を含めた幅広い意味での社会的排除という問題への対応、あるいは福祉国家から福祉社会への移行に伴う段階の消費のあり方の中での役割、それから、そういう流れを意識しながらNPO、NGOの役割というものが何らかの働きかけを行っていくであろうということでございます。
 その上でNPO、NGOの課題。資源の不足ということがございますけれども、そういう意味では資金、人材、情報等の組織などが不足をしている。それから、地域性を考慮することは重要であろうということで、具体的な実践事例をご報告いただきました。
 その上で各委員のご意見ということで、「福祉」の転換と消費者、この消費者のあり方、あるいは利用者のあり方ということのご意見。それから、次でございますけれども、NPOの役割ということでご意見をいただきました。ポイントでまとめさせていただいてございます。
 資料1については以上でございます。

○高橋分科会長

 ありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、資料2に即しまして、きょうは平岡委員にご報告をお願いしております。「サービス供給体制の変容と政策形成のあり方」というテーマになりますが、ひとつよろしくお願いをいたします。

○平岡委員

 それでは、今ご紹介いただきました内容でご報告をさせていただきたいと思います。資料2は4枚つづりですが、3枚目までに報告のポイントをまとめた要点、あと、その3ページの下と4ページ目のところに関係する図表を載せさせていただいております。
 今日、どういうテーマでお話をすればいいかということで、高橋分科会長からも幾つかヒントをいただいたんですが、時間も限られておりますので、このようなテーマにさせていただきました。
 サービス供給体制ということについては、私の研究テーマでもありますし、イギリスとの比較ということも行ってまいりました。そういう観点からこのテーマを取り上げるということ。政策形成のあり方ということは、これについてもかなり大きな変化が起きてきております。この2つは必ずしも必然的に結びついているテーマではありませんが、この2つの点についてお話をさせていただければと思います。
 申し上げるまでもなく、児童福祉法の改正、介護保険法の制定、2000年の、いわゆる社会福祉基礎構造改革を実現化する法律改正といったものによりまして、サービス供給体制の大きな変化がもたらされたということが、議論の前提としてあるわけです。これは、90年代から各種の検討会の報告などで示されてきた社会福祉の新しいあり方を実現するための改革であったということは当然のことでありまして、それは社会福祉サービスというものを、必要なときに誰でもが利用できるような普遍的なサービスという性格のものに変えていくことであり、かつ、そのときにそのサービスの質的な向上を利用者による選択と、サービス提供組織の間の競争によって実現していくという方向への転換であったということが言えるかと思います。こういった改革は、国際的な福祉制度の改革の中で、ある程度どの国でも、多かれ少なかれ取り組んできた改革の方向性と一致してきているということは言えるかと思うわけです。
 私はイギリスの福祉政策を専門にしておりますので、その研究を進めてきた立場からいいますと、イギリスでたどってきた道を10年から20年おくれて日本はたどっているという側面がある、という印象を強く持つわけです。このことは、日本の福祉がイギリスに比べてすべて10年以上おくれているということでは必ずしもなくて、保育サービスのように日本のほうが早く普遍的なサービスの供給体制を実現している分野もあるわけですが、どういう点に関してこういうことが言えるのかということを考えますと、1つは、コミュニティーケアを推進していくということで在宅サービスの量的な拡大のための全国的な計画をイギリスでは70年代に実施しましたが、日本のゴールドプラン等の計画は、90年代ということがあるわけです。その後に起きてくる課題は、日本の場合、高齢化がさらに進展しますから、量的にもまだ拡大していく必要があるわけですが、いかに適切なサービスを供給していくシステムをつくっていくかという、組織化もしくはシステム化ということが課題になってくるということであります。
 それから、イギリスでは90年代に福祉・医療の分野に市場原理を導入する改革を実施したわけでありまして、それは基本的には継続していますが、一部分、医療の分野などでは、競争原理というよりは協調とか協働ということの連携を重視する方向での方向修正が行われているわけです。
 それから、児童虐待の問題が日本で深刻化したというふうに言われています。かなりの部分は、潜在化していた問題が顕在化してきているということの結果だと考えられますが、そういったことによる問題が表面化してくるケースが大幅に増えていくという現象は、実はイギリスで70年代から80年代に起きてきたことであります。
 このように、日本では、他の先進諸国がたどってきた方向を後からたどってきているという側面がありますが、ある分野ではかなり成果をおさめているという面もあるわけであります。特に介護サービス等を急速に拡大してきたこと、あるいは、ある種の市場原理を導入することによって、そのサービスの供給体制を大幅に変えてきたということは、いろいろな問題を含みつつも大きな成果をおさめてきたと言えるのではないかと思います。
 ただ、国際的に見たときに立ちおくれている分野があるわけでありまして、こういったサービス、量的な拡大や市場化では解決しないような問題、特に専門的な対応を要する児童虐待であるとか家族問題、あるいは精神障害者福祉といった分野での取り組みが、まだ大きな課題として残っているということが言えるのではないかと思うわけであります。また、専門的なソーシャル・ワークの展開という点において、諸外国に比べてまだ課題が多いことは、多くの研究者、専門職などが指摘するところではないかと思うわけでありまして、昨日も社会福祉学会で議論されていましたが、学術会議等でも専門的なソーシャル・ワークが展開し得るような社会システムのあり方ということが検討課題となってきているようであります。
 さて、その問題は少し横に置きまして、主にサービス供給体制の変容ということについて、私が依拠してきた福祉政策論、社会福祉の運営論といったもののある一つの理論枠組みに基づいて整理をして、その課題を考えてみようということでお話をさせていただきたいと思います。
 サービス供給体制をどう分析するかということについては、こういう分野で早くから研究を進めてこられた高橋分科会長が、既に20年ぐらい前に論文を書かれておられまして、参考文献の一つに挙がっている本の中でかなり明確な図式が示されておりますが、ここでは、アメリカの研究者の提唱している枠組みに沿って、ある意味では非常に単純なことになりますが、だれに対してどういうサービスをどういう方法で提供し、その財源がどのように確保されるのかというのを、そのサービス供給体制の基本的な要素と考えまして、それに関してどのような変化が起きてきたかということを整理してみたいと思うわけです。
 まず、だれを対象にサービスを提供するかということに関して言えば、これは対象の設定とか限定ということになるわけですが、大きな流れとしては、選別主義から普遍主義へという変化が起きてきたということが言えるかと思います。これは保育サービスで早くから実現したと言っていいと思いますが、介護の分野では介護保険でほぼそういう方向が実現したということが言えるかと思います。ただ、高齢者の養護老人ホームのような、まだ選別主義的な制度も残っているということもありますし、それをどう位置づけるかということが、まだ課題として残っているということもあります。
 また、一部の研究者は、普遍主義というものがあまりにも偏重されすぎていて、むしろ選別的な制度の必要性が見落とされているという指摘をされているわけであります。大きな方向としては普遍主義的な制度を目指しながら、ある部分は選別主義的なものが必要だろう。その適切な組み合わせが必要であろうという指摘もされているわけです。
 さて、一方で福祉サービスというのは、個別のニーズに応じて必要なサービス、最適のサービスを提供するのが望ましいやり方というふうに考えておりますから、いわゆる低所得層に限定するということでないとしても、「ターゲッティング」という言葉が使われておりますが、何らかの形で、対象を限定して、そこにできるだけ資源を集中させることが必要であると言われているわけです。
 これに関しましては、介護保険制度の仕組みは、ある意味でターゲッティングが適切にできない仕組みだという見方も一部ではあるわけです。つまり、要介護認定でランクが決まると、その上限までは自由にサービスが使えるということで、あるいは、ほんとうに必要な場合でも、上限を超えるとそのサービスが使えないということで、ターゲッティングということでいうと必ずしも効果的ではないという見方も一部ではあります。しかしながら、大きく見ると、従来の高齢者福祉の仕組みに比べると、介護保険はかなり適切にターゲッティングを行っている面もあるという見方もできるかと思います。
 それは、1つは要介護度の認定という基準で明確な基準を設けまして、対象を限定しているということがあるわけでありまして、要支援・要介護の条件に該当しない場合は、従来のようなホームヘルプサービスは受けられなくなって、違った形でのサポートを提供するという形で対象を限定しているということがあるわけです。
 また、実際のサービスの利用の状況を見ますと、これは私がデータを使って分析したものなどもありますが、実際に介護が相当必要とされる、家族の負担が大きくて在宅生活が困難であるケースについて、介護サービスがよく利用されるようになってきたということは確かにある。家事援助に偏重していたような仕組みから、かなり介護ニーズに対応するものになってきたということは、結果的に見ると確かにあると思います。
 さて、サービスの内容、種類に関して言いますと、教科書的に言えば現金給付と現物給付の選択が、まず1つのポイントになると言われています。これについては、日本の社会福祉では、基本的に大部分が現物給付で行うという方式が定着してきているわけでありまして、それが今回の改革でも維持されてきていると思います。ただ、介護保険で家族に対する現金給付をどうするかということが、まだ課題として残っているわけでありまして、それは介護の社会化との関係で議論されてきていますが、現金給付が現物給付よりも、場合によると有効に活用できる場面もあるわけでありまして、そういう観点からの議論も行われる必要があるだろうと思うわけです。
 次に、資料の2ページに移りまして、施設ケアと在宅ケアの問題であります。これは社会福祉の基本にかかわる大きな問題で、数分間でお話しするのは適当でないと思いますが、基本的には在宅ケアを中心とした体制をつくっていくことが、国や自治体の政策目標としても明確にされてきたということは言えるかと思います。他方では、それを実現するために実施されている介護保険においても、現実には施設入所の需要が大幅に拡大しているという現象が見られるわけです。この入所需要の拡大の中には、待機者が増えてきたので、早く申し込んでおこうという形での、疑似的な需要といいますか、そういうものもありますが、実質的にも増えてきている面は否定できない。細かい数字の推計等は、ここでは省略いたしますが。
 これは、施設ケアに対するアクセスがよくなった、利用しやすくなったということの結果でもありますから、すべてがマイナスには評価できない面もあるかと思います。しかしながら、例えば在宅サービスを十分に利用しないまま施設入所につながっているケースが、私がデータ分析した限りでも結構多いわけでありまして、ある区で、在宅で待機しているケースで在宅サービスをどのくらい利用しているかといいますと、介護保険の在宅サービスを限度額までフルに利用しているケースは半数以下でありまして、かつてに比べると随分利用しているということは言えると思いますが、在宅ケアのあり方についての問題が投げかけられているという面はあるかと思います。
 また、支援費制度が始まるとともに、従来あまり議論されていなかった問題がクローズアップされてきて、自立生活を保障できるようなサービス水準が維持できるのかということが課題になっているわけです。
 そういう問題はありますが、基本的に将来どういう方向性を目指していくのかということを確認していく必要があると思うわけですが、それを私はこういうふうに整理しております。基本的に施設ケアと在宅ケアの二分法は成り立たなくなってきている。そして、新しい段階のコミュニティーケアに進む必要があるというふうに考えるわけです。その新しい段階というのは、ここでは簡単に申し上げますと、1つは施設の住宅化であり、1つは集中的な在宅ケアのサービスの提供であり、3番目は、その前提条件はコミュニティーの中での生活が、コミュニティーというのは少し抽象的な概念、単に住みなれた地域にいるというだけでなく、地域の中での人間関係、あるいは社会的な交流が保たれることが重要だということを含めて、この3点であります。
 施設の住宅化というのは、細かく見ると2つの点があるかと思うんですが、1つは、きょう資料3に基づいて後ほどご紹介があると思うんですが、施設と在宅の中間的なものをこれからつくっていく必要がある。現に福祉のいろいろな分野でグループホームといったものが普及してきたのが、90年代の新しい動きだと思うんですが、そういうものがだんだん広がってきているわけです。
 それからもう一つは、施設の中での生活環境がより住宅に近いものになっていく必要がある、ということがあるかと思います。これも高齢者介護研究会の報告の中でも、例えば最低居住水準といったものを目安にして、施設の中での居住環境が整えられる必要があるという指摘も出ています。こういう方向で進めていくということは、施設体系の再編成が求められているということであるかと思います。施設体系というよりも、在宅を含めたサービスのメニュー、それぞれのサービスの対象と機能といったものが再編成される必要があるということであるかと思うわけです。
 2000年前後の改革は、どちらかというとサービス利用の手続に関する改革、あるいはサービスの供給メカニズム、資源配分のメカニズム、これを計画的なものから市場的なものへと変えるという改革であったかと思いますが、サービスの内容そのものについての改革が、特に進んだということではないと思うわけです。
 そういうサービス体系の再編成ということが課題となって、それが痴呆高齢者のための分野に特定して言えば、高齢者介護研究会の報告などでかなり詰めて検討されたのではないかと思うわけです。
 さて、3番目のポイントとして、だれがどのようにしてサービスを提供するのか、どのようにしてサービスが利用者のもとに届くのかということでありますけれども、これは社会福祉の中では、公私の役割分担とか福祉多元化ということで議論をされてきたわけでありまして、それについて大きな変化が起きてきているということは、申し上げるまでもないかと思います。
 福祉の多元化について、おそらく2つの流れがあって政策あるいは体制の変化が起きてきているのではないかと思いますが、1つは、介護保険とか障害者福祉の支援費制度によって、利用者が自由にサービスを選べる、事業者を選べるということで、それによって選べる範囲が非常に拡大されたわけであります。従来も、例えばホームヘルプサービスを営利企業に委託することは自治体でできたんですけれども、それはほとんどやっていなかった。それが、利用者が選ぶことによって営利企業などのシェアが高まってきたということがあると思います。
 保育サービスでは、そういう意味での改革とは違った改革であったと思うんですが、もう一つは、いわゆる規制改革の中で、新規参入に対する規制、設置運営主体の制限が緩和されてくるということが起きてきているかと思います。
 そういう流れの中でかなり多元化が進んできたということが言えるかと思いますが、それは具体的には、例えば介護保険制度の場合を見ますと、4ページの表をごらんいただければと思います。これは、厚生労働省の介護サービス施設・事業者調査に基づいて私が整理をして、パーセントを計算したりしたものですが、例えば訪問介護において、事業所数で営利部門が3割ぐらい、サービスの供給量で25.7%だと推計しておりますが、そのぐらいに増えてきたということがあるわけです。一方で、社会福祉法人とか医療法人のウエイトが非常に高いわけであります。NPO法人も随分増えてきますが、これが近い将来、量的にはサービス供給の中心になるとはちょっと考えにくいというような状況であるとか、こういったことがありますが、非営利部門の中も多様化している、多元化しているということは言えるかと思います。
 さて、戻りまして、2ページのところで、もう一つ、日本の福祉多元化の特徴的なところとしましては、20年ほど前に三浦文夫オブザーバーがその分類図式を示されたのですが、社会福祉法人などの認可型組織と参加型組織という2つのタイプのものが日本の非営利組織の中にあると。これが制度的に非常に明確に分かれている、事業の規模などからいっても完全に分かれているのが日本の特色であるかと思います。一部には、社会福祉法人は社会福祉の古い体制をあらわすものであって、NPOなどが新しいものであって、これからはNPOの時代だという見方もあるんですが、現実には、いろいろな観点から見て、たまたま制度上そういうふうに2つに分かれておりますが、完全に別なものと考える必要はないのであって、社会福祉法人も、歴史的に見れば、その当時、非常に新しい分野を開拓してきたNPOであったということが言えるわけであります。今後、NPO法人も、その事業規模を拡大するに伴って社会福祉法人の形をとっていくということもあり得ます。あるいは、社会福祉法人の中のNPO的な性格をいかに回復、あるいは開拓していくかという課題の設定の仕方もあるだろうと思うわけです。
 それからもう一つは、「疑似市場」とか「準市場」という言葉、これは両方、同じような意味で使われておりますが、そういう仕組みが形成されてきたということがあるかと思います。この市場の問題は、ほかの委員の方のご報告でも触れると思いますし、これまでもいろいろ議論されてきたと思いますので、詳しいことは時間の関係で省略いたしますが、1つは、そういう市場メカニズムが作用するといっても、介護保険制度の場合でいうと、当初の段階では、従来からの事業者のサービスを利用し続けるということで、急に変化はなかったんですが、徐々にそれが機能するようになってきているということはあると思います。ただ、一部で考えられるように、福祉サービス、介護サービスの全分野でそういう自由な競争が行われているという状況からはほど遠い状況があるわけでありまして、訪問介護はかなり自由な競争が行われていると思いますが、規制・介入の程度はさまざまであって、例えば施設サービスについていえば、設置主体についての規制がかなり強いと同時に、計画による整備目標のコントロール、補助金制度などがあって、市場競争とはかなり違う仕組みが作用している。そもそも需要が供給を相当に上回っていますので、あまり選択の余地はないという面があるわけです。また、在宅サービスでも、施設整備を前提とするようなものとそうでないものとか、福祉系のものと医療系のものでは随分違いがあるということは言えるかと思います。
 そういう競争原理を導入することが、一部で批判されたように、必ずしも大きな問題は引き起こさずに、介護保険のサービスの提供は順調に行われているという面はあるかと思いますが、ただ、一つの問題点としては、在宅サービスにおける連携とか調整が十分に行われなくなるという側面がある。場合によると、一部誤解があって、例えば高齢者サービス調整チームといったものは市場原理に合わないので、あるいはケアマネージャーがすべてそういうことは行うので、必要ないのではないかというようなことで、廃止してしまったような自治体もあったわけであります。これは一時的な現象かもしれません。地域ケア会議などを通して、むしろ連携・調整を積極的に取り組むことが課題だという認識はだんだん出てきているのではないかと思う点もあります。
 それで、財源調達の側面については、ここではちょっと時間がなくなってきましたので省略させていただきたいと思いますが、1つは、介護保険制度が、今度保険料の改定が行われまして、引き上げが行われていく中で、介護保険になれば供給が需要に応じて拡大され、財源が保険料という形で確保されると言われていたのが、いろいろな制約が加わってきているという側面は無視できないだろう。介護保険が最終的な解決策とはなかなか言えない面があるということはあるかと思います。それから、低所得者の負担の問題が大きな問題として残っているかと思います。
 さて、その次のページで「政策形成のあり方」に関して、若干の論点の提供ということにとどまりますが、4つほど触れたいと思います。
 1つは、大きな変化は、90年代、社会福祉の障害・老人・児童の各分野で計画の策定が進んできている。そして地域福祉計画が制度化されるということで、その計画が整備されるようになってきているという面があります。ただ、問題は、福祉計画といったものは、高度成長期以降の福祉予算が持続的に拡大できることが前提となって、量的な拡大の目標を示すことに存在意義があると考えられてきたのが、そうでない状況になってきたときに、どれほど有効にその計画が機能するかという問題があるのではないか。量的な拡大のための計画ではなくて、サービス組織化のための計画、例えば介護の分野でケアマネージメントの質をいかに高めていくのかといったことの計画が、どれだけ有効に機能し得るのかという課題があるのではないかと思います。
 それから、政策形成と参加ということに関しても、市民参加が改めて注目されるようになってきておりまして、これについて、社会保障制度審議会が行政改革で廃止される前の段階で最後の意見書を出しているわけですが、その中で、社会保障の今後のあり方として、全国民の参画が政策形成において求められるのではないか、あるいは政策の立案や決定過程での情報公開を実現することによって透明性を確保することが望ましいという提言をしている。このことが一つ参照されるべきではないかと思っております。
 実際にそういう変化がいろいろな場面で起きてきているわけでありまして、社会保障審議会の介護給付部会などでもかなり詳細に議論の内容が紹介されていて、審議会の中でこの分野が一番情報公開が進んでいると思っていますが、各団体からのヒアリングとか、意見の公募などが行われて、その資料が全部公開されている。政策決定における情報の開示という点で注目すべき動きではないかと思いますが、これは、イギリスでは国会とか審議会でいろいろな問題を議論するときに、いろいろな団体あるいは専門家が、エビデンスという形でいろいろな報告なり意見書なりを提出するという伝統がありまして、こういうものが日本でもある程度定着しつつあるのではないかというふうにも考えるわけです。
 それから、東京都社会福祉審議会の役割については、私は今までも重要であったと思うんですが、この審議会の場合には、単に行政の提案をバックアップするような報告をまとめるであるとか、あるいは利害調整のための審議というよりは、社会福祉の新しい方向を示して、それが、ある場合はすぐに政策として実現されるけれども、場合によると十数年たってから本格的にそれが取り入れられる、将来の方向を示すということで重要な役割を果たしてきたのではないかというふうに考えております。
 それから3番目に、今後必要になってくることとして、政策科学的な研究の活用がどうしても求められるのではないかというふうに考えるわけでありまして、これは諸外国の例を見た場合、日本の場合、研究者の側もそういう点についての取り組みが不足であるわけですし、客観的な証拠に基づいて政策を論じることがまだまだ少ないのではないかということで、今後の課題として挙げておきたいと思います。
 1つ、あまり紹介されていない例なんですけれども、イギリスの場合で、いろいろな審議会の報告を行うときに、当然資料を集めて分析するんですが、その中で特定の問題に関してどういう調査研究が行われていって、どういう知見が得られたのかということを整理する、そういう研究レビューというものをかなり一般的に行っているようです。日本でも実際、介護の問題などでも多数の学会でいろいろな研究報告が行われていまして、そういうものは、そのままの形ではなかなか政策に活用できないわけで、それを整理して、まとめて公表するといったことも今後必要なのではないかと思います。
 それから、政策評価については、ここ数年、非常に大きな動きがあったわけですが、プロセス評価、アウトカム評価ということで、サービスの質の評価であるとか、結果としてどれだけ有効にニーズが充足されたのかという観点からの評価を行っていく体制が今求められているというふうに考えます。
 時間が超過してしまって恐縮ですが、大体以上の内容で報告を終わらせていただきます。


○高橋分科会長

  ありがとうございました。
 大変示唆に富んだご報告をいただいたと思いますが、私の報告等も含めまして、後で質疑応答ということにしたいと思います。
 それでは、ご報告申し上げます。前振りの資料、東京都の実績についての若干のデータ、龍谷大学の池田教授がつくったものがあります。
 これは介護保険の2年半の実績でございます。利用者がこれだけ増大してきた。それで、どこで生活しているかということでございます。
 それから、先ほどの話ではございませんが、措置制度の時代に比べまして、訪問介護は2、3倍伸びました。先ほど平岡委員が示唆されました在宅については、さまざまな参入を促進いたしましたので、非常にフレキシブルに伸びてきているということでございます。
 ところが、真ん中は特別養護老人ホームですが、これも伸びてはいますが、訪問系のサービスに比べますと、伸びはさほどではないというような姿でございます。
 それから、これも顕著な事例でございますが、要介護4とか5のところで、これは半期別の伸びですけれども、在宅サービスの量が急激に伸びてきている。これは、多分東京では、非常にその特性が当てはまるのではないかと思います。
 それで、これは地域ケア政策ネットワークでつくった評価システムを使ったデータなんですが、横軸に高齢者1人当たりの施設サービス給付額、縦軸に高齢者1人当たりの在宅サービス給付額を47都道府県で見たデータでございますが、東京はここです。沖縄問題と言っておりますが、沖縄はここにございまして、施設もサービスも猛烈に伸びてきて、これは基本的には医療法人系がすべて抱え込んでやっているというところでございます。それから、青森がここにございます。青森はデイサービスが異様に高いんです。それで、調べに行った人の報告を聞きましたら、老健がやっているデイなんですね。それで100人のデイをやっている。そういう形で青森は伸びてきている。徳島はここにございます。施設サービス偏重。北海道は昔から老人病院、療養型病床の施設が多い。東京、神奈川、滋賀、奈良、これは1人当たりの居宅サービスの供給量のレベルが高くて、神奈川はもっとですけれども、施設については1人当たりの給付額が小さい。これは居宅サービス重視型。それから、埼玉千葉問題と昔から呼んでいますが、ここは施設も居宅もないところということで、そういう意味でかなり地域性がありますが、総じて西高東低でございます。
 さらに、これは前に「アエラ」に出たものを修正したものですが、23区、これは後で資料はプリントいたしますが、ここに出ているのは多摩で、23区はまさに居宅サービス中心型であります。それで、千代田、武蔵野がここにございまして、目黒、ここら辺は、ここ3年の実績でいえば居宅も、それなりに施設も東京の中では伸ばしてきた。こちらは施設優先でございます。東村山、清瀬、ここら辺は東京都の中では施設シフト型。それから、この3年で相当地域性があらわれてきているという、これは東京の特性として、これから議論していただく上で重要かと思いますが、大都市は、これはご想像のとおりでございまして、訪問系が極めて高くて、これが全国平均でございますが、もともと東京は老健施設が非常に少のうございますが、そういう形でございます。
 青が神奈川、東京都は、要するに特養シフト型で医療系がない、これはもちろん東京の特性であります。もともと老健施設は、医療系の施設が老健はなかなか立地してこなかったという事情がありますが、ここら辺は、ちょっと時間の関係で飛ばさせていただきます。
 それから、ちょっとおもしろいデータがあります。要支援・要介護の問題が今話題になっておりますけれども、高齢単身・夫婦のみ世帯は軽度の認定申請が多くて、中度はそんなに地域差がなくて、重度はさらに地域差がない。ということは、要支援・要介護1の軽いところは、それこそ家族要因が非常に関係するけれども、重度の認定申請についてはそんなにばらつきがない。これは、要介護認定という仕掛けのエビデンスのおかげでわかったデータでございます。
 それから、グループホームは急激に増大しているという、そんなことで、これが東京の介護保険の概観でございますが、本題に入らせていただきます。
 「2015年の高齢者介護」を6月に公表いたしました。これは厚生労働省の老健局長の私的研究会で、座長はさわやか福祉財団の堀田力先生でございますけれども、ご承知のように2015年というのは団塊の世代が65歳に到達する時期でございますし、その10年後に団塊の世代の介護保険利用が本格化するであろうということでいえば、2025年を見越して2015年にどのようなサービスを整備すべきかということを、2006年の改正で考えようということでございます。
 それから、先ほど平岡委員が指摘されたように、これは中村老健局長のおもしろい比喩ですが、介護保険というエンジンは2000年4月型を積んである。しかしながら、高齢者介護システムは1990年モデルのエンジン。ということは、それを21世紀モデルに、車体をモデルチェンジする必要があるのではないか。そういう意味でいえば、介護保険の議論の中には、ケア論というのが明確に議論されてこなかった。介護保険法の中に、ケアとは何かというのは定義されていないわけですが、そういうことも含めて、今後追求すべき高齢者ケアシステムというか、そういうものを考える。
 それから、2006年にゴールドプラン21が切れます。ということは、先ほどの話でございますが、今までのゴールドプランは、先ほど平岡委員が指摘されたように量的な拡大、ホームヘルパーを何人にするかとか、そういう量的な拡大を中心につくってきた計画ですが、2006年以降のゴールドプランは、サービスの組織化に焦点を当てた、そういうことでいえば全国一律で計画数値をつくるという、そういうことではないだろうというような考え方でございます。そこでの議論の素材をつくろうと。そして、これを介護保険に反映させていくということでございます。
 眼目としては先ほど申したとおりでございますが、それからもう一つは、これもよく言われている話ですが、この報告書の57ページをごらんいただきますと、各都道府県別の65歳、75歳以上人口の議論が出ていますが、東京都は65歳人口が今208万ですが、これが2015年に297万で、42%の増大です。75歳以上人口84万が145万になりまして、1.7倍になる。埼玉、千葉を中心に、これから猛烈な高齢人口、これは大都市型高齢化と言ってよろしいかと思いますが、それで、非常にボリュームが大きい高齢人口が大都市で急激に増大する一方、鳥取、島根ということになりますと、例えば島根を見ていただきますと、19万が21万ですから、たかだか2万しか増えない。75歳以上人口でいえば、9万5000が11万ですから、2万3000人程度。ところが、東京で増えるのは60万でありますから、30倍のボリュームが、これから大都市で集中いたしますから、そういう意味では質の違い、要するに高齢化成熟地域と言いますが、これは、ある意味では中身をどうするかという議論。そして、ここら辺はしばしば施設が多立地のところですから、そこでのサービス組織計画と、東京の場合は、要するに東京もそうですし、埼玉、千葉が一番深刻なんですが、もともと先ほど見ていただきましたように施設不足、それからサービスもそれほど大きくはないところで、急激にニーズが伸びるという構造をどう理解して、一方で制度の持続性とのバランスをどうとるかという、これは大変難しい政策選択をこの10年にしなくてはいけないということでございます。
 それから、ここで堀田力さんが非常に強く強調されて、高齢者の尊厳を支えるケア。これは社会福祉法の中にも「個人の尊厳」という言葉で、「尊厳」という言葉が入りましたが、その理念をきちんとして政策評価ができるような理念形成をやろうと。
 それから、寝たきりケアモデルから痴呆ケアモデルという痴呆性高齢者に対応するモデルを考えていく。これは後ほどちょっとデータをお示しします。それからもう一つは、地域包括ケアシステムという考え、これも先ほど平岡委員から提起があった問題とかかわります。それから、今回の検討会は武田委員にもお越しいただきましたが、相当多数の実践の方から集中的にヒアリングをいたしまして、先駆的な実践を基礎として、それを導き糸にしながらケアモデルを立てていくという、そんな議論をいたしました。
 全体構成は、皆様のお手元に「2015年の高齢者介護」というチャートがございますので、これに沿ってお話をいたしますが、介護保険施行後の幾つかの論点としては、先ほどお話ししたとおりでございますし、平岡委員からも指摘があったとおりでございますが、一方で、ご承知のように急激に財源制約が、社会保障制度の見直しの中で極めて厳しい形で提起されておりますし、これは後ほど指摘をしたい障害者の介護保険の問題とも絡みますが、三位一体改革の中で、補助金によって政策を推進するという手法が急激に通用しなくなる、そういう事態でますますきびしくなります。保険財源という特定財源を確保しながら、サービス部門へ投入していくというシステムの有効性は、ますます高くなっておりますけれども、それにしても財源制約が、補助金ほど強烈ではないとしても非常に制約がかかってくるということがあろうかと思います。一方で、先ほど申しましたように地域的なニーズは偏在しながら、ニーズは爆発的に拡大するという、そういう時点でございます。これは先ほどお話をしたとおりですので。とりわけ高齢化後進地域と高齢化成熟地域、これは先ほどの話でございます。
 それから、高齢者単独世帯の伸び率というのも、これは東京が入っておりませんが、急激に拡大をするということでございますが、その中で議論いたしましたのは、痴呆ケアモデルという議論でございます。
 先にこのデータをごらんいただきたいと思いますが、4ページに横位置で出ております。これは要介護認定データ、まさにエビデンスということですが、要介護認定データから推計をしたものでございます。2002年9月の要介護高齢者が314万人いて、居宅で210万、特養で32万、老健施設で25万、介護療養型医療施設で12万、その他、特定施設ですが34万ということになっておりまして、この中で何らかの痴呆症状が見られる、これが149万。定義は、この本文の後ろに出ておりますので、ご参照いただきたいと思いますが、自立度II、それから自立度IIIということで分類をしています。とりわけ自立度IIIのほうをごらんいただきますと、314万のうち79万、これが自立度III以上の痴呆性高齢者。居宅では28万ですから、10数%。それから、特別養護老人ホームで32万のうち20万、老健施設13万、介護療養型8万、そんな数字が出ておりますが、括弧、これは障害自由度「自立」、または「J」、「A」で、なおかつ痴呆自立度III以上ですから、平たく言うと重度の徘回をする高齢者がどこにいるか。これが25万の中で実に15万、3分の2が在宅にいる。それから、特養4万、老健4万、介護療養型1万ですから、これは逆に言いますと、施設へ入ると寝たきりにする、ということもあるだろうし、もちろん施設がとらないであろうということもありますが、実に3分の2の最も介護を必要とするというか、ケアを必要とする痴呆性高齢者が在宅でいるということがデータでわかりまして、これはかなり大きな今回の報告のエビデンスだと思っております。これがそのまま伸びるとどうなるかということで、これもページに出ております。
 そして、その中で新しい痴呆高齢者ケアをモデルにしようというのは、ご承知のように日本の高齢者対策は、長い間、寝たきり老人対策として展開をしてまいりました。昭和46,7年の有吉さんの本は、まさにアルツハイマーの高齢者をモデルにして議論を出したにもかかわらず、日本では政策選択として寝たきり老人にターゲッティングをして、それこそ自立支援という概念、身体自立の支援ととられるような形で政策が展開をしてきたというのが事実。これは一方で言えば、痴呆高齢者のケアのあり方に関する決定的な手法が、まだその当時見つかっていなかった。身体ケアに比べて、痴呆性高齢者ケアがおくれていたわけです。
 しかしながら、先ほどのデータでごらんいただきましたように要介護高齢者のほぼ半分、施設入所者の約8割が何らかの介護支援を必要とする痴呆のある高齢者であるとすれば、要するに痴呆高齢者をどう普遍化していくかという議論がでてまいりました。グループホームという痴呆対応型共同介護という新しいスキームを介護保険の中で導入したことによって、かなり実践が進んできました。それから痴呆性理解が、ある意味で病因論というか、病気の原因を探るという議論ばかりだったのが、高齢者の特徴を踏まえたケア論が、ようやくこの数年出てきました。先ほどの4ページでございますが、生活そのものをケアとして組み立てるという、そういうことが書いてあります。
 これはリロケーションの議論もございますけれども、環境の変化を避けて生活の継続を尊重する、高齢者のペースでゆったりと、心身の力を最大限に発揮した自立した暮らしというようなものです。これはまさに従来の、先ほど平岡委員が強調されたような施設在宅二分モデルでは対応できないために、日常の生活圏域を基本としたグループホーム、小規模多機能拠点、そしてさらに施設そのものを居宅化するというものです。個別ユニットケアで強調されているような施設機能の地域展開とユニットケアという形、それを支える痴呆性高齢者についての専門的資質を向上するマンパワー論というか、人材育成論がこれからの課題でしょう。
 例えばホームヘルパーの養成課程を見ていましても、あれは身体介護中心のカリキュラムでございまして、コミュニケーション能力とか、そういうことを踏まえたケア、これは精神障害者のケアの議論を考えても、その辺が実は非常に不足しているということがありまして、そういう政策化が必要かと思います。同時に、先駆的実践と言われましても、それがまだ標準化しておりません。要するにエビデンス・ベースのケア手法の評価、それからサービス・パッケージの開発、これは先駆的なグループホームや、さまざまな実践がある種の職人芸として展開をしておりますけれども、これを標準化していく必要がある。
 それからもう一つは、痴呆性ケア、これは寝たきりについては相当わかり始めたと思いますが、事前的介入のシステムというか、心身機能の低下、痴呆性ケアのステップ・バイ・ステップの進行を予測して、それに対して事前的に対応するようなサービス体系をどういうふうにつくったらいいか。基本的に今までの高齢者ケアは後始末、要するに寝たきりになってからどうするという議論でしたが、痴呆性の問題でいえば、この委員会のメンバーでありました東京都老人総合研究所の本間昭先生が非常に強調しておりましたけれども、早い時期に痴呆性がどういうタイプの痴呆かを見つけることができれば、相当予測的対応ができるはずだそうです。ところが、それがわかる専門医は、全国に2,500人ぐらいしかいないんだそうです。ということは、内科医の大部分はそこを識別する能力はないのではという議論がありまして、地域のレベルで痴呆に対する理解をつくりながら、専門的なバックアップの仕掛けをどうつくるかというのは、まさに地域ケアの中で痴呆性高齢者対策をやらなければいけないと思います。それから、介護予防と同時に、痴呆介護予防という議論は、そういう形でやる必要がありますから、そこら辺のシステムをどうつくっていくかというのは非常に大きいかと思います。
 少し先へ進ませていただきます。
 生活の継続性を維持し、可能な限り在宅で暮らすということで、先ほど言いました自宅と施設の間に特定施設とか、グループホームというような新しいスキームが介護保険の中で登場いたしましたが、これをいろんな意味で政策的に拡大をしていく。一方で自宅については、在宅サービスについては、これを制度的にどういうふうに実現していくかというのは、これからのいろいろな議論になりますが、家族介護補完型の在宅サービスというモデルから、先ほど都市部で単身世帯が急激に拡大するということでいえば、365日、24時間介護ができるような、切れ目のないサービスをどうつくっていくか。
 それから、選択的に住まいと自宅の間に、これからちょっとその実例をお見せいたしますが、そういうオプションをどういう形で拡大して、リロケーションということがあるとすれば、要するに介護が必要になった場合、それを事前的に対応できるような住みかえの仕掛け、これは東京という住宅事情が非常にタイトなところでは、議論としては難しいんですが、やはりそういう受け皿はきちんと整備する必要があるだろう。それから、もちろん施設は地域展開をして、ユニットケアとか個別ケアを追求しながら、その機能を施設に展開していくということで、例えば50人の特養を10人ユニットの4ユニットということになれば、10人分の空きが出るわけですが、それを地域に出して、そして通所介護とか訪問介護というものの機能分化をしていく。そういうようなやり方もあるだろうし、小規模多機能拠点というか、そういう言い方をいたしましたが、さまざまな新しい施設展開が必要だろうということ。
 ちょっとその事例をお見せいたします。これは福岡の「宅老所よりあい」、日本の宅老所の第1号の施設ですが、大正6年に建った木造の家を改装いたしまして、木造としても相当できのいい住宅ですが、それをグループホームと通所介護、痴呆のデイという形で事業をしておりますが、それに変えたものでして、これがその光景で、この人は95歳で3回骨折している。それから、ここにいる人が全身褥瘡、ボケが非常にひどかった方が、こちらで急激に治った。それから、もちろんリロケーションのことでいえば、周りの雰囲気がよいこともあります。
 痴呆性高齢者のケアで回想療法ということがかなり言われておりますが、人生というか、そういうものをきちんと踏まえてケアをする。だけど、女性の痴呆性高齢者は生活技術を身につけてボケるんだけれども、男は生活技術を身につけずにボケるので処遇が大変だと。管理職とか、そういう人がボケると大変だという話はよく聞くんですが、それはそれとして、ケア論ということでいえば、かなり進み始めてきているなというのが実感でございます。
 それからもう一つは熊本の、小規模多機能といいましたが、これはグループホームとデイですが、8人のグループホーム、それからデイを併存していますが、新興住宅地を2ブロック買って、全部で7,000万ですから、東京と比べれば安いといえば安いんですが、1人当たり1,000万でこれだけのものが建てられる。東京ですと、50人だと15億はかかるでしょうから、ある時期1ベッド7,000万、場合によっては土地取得費を入れて1億というべらぼうな施設がありました。これはある意味では公共事業に近い。逆に小規模多機能であればそのくらいのベースでつくれる。
 それから、私が最近注目しているのは、長岡のこぶし園がやっている実践です。100床の特養を持っておりまして、かなり早い時期にショートステイ専用施設をつくっておりますが、これを拠点にして将来特養を廃止するということですが、これはサポートセンターと言われるやり方で、これをやっている小山さんは「コンビニ型」と呼んでおりますが、建設会社の独身寮を4,000万ぐらいで改装したと言っております。そしてエレベーターを外付けにしまして、デイサービスセンターとケアプランセンターと配食サービスステーション、ユニバーサルハイツが4室。それから、これがおもしろいんですが、24時間のホームヘルプサービスと24時間対応の訪問看護ステーションのオフィスを、このくらいのスペースに集中させて、平たく言うと町内会単位に、大小いろいろありますが、20幾つ地域展開をしているはずですが、そういう形のものをつくっております。
 これがその中身ですが、要するにグループホーム単独でやりますと、はっきり言って非常につらい。それを複合型施設にして、デイの24時間型のオフィスと一緒にすることによって、24時間対応がいろんな形でフレキシブルでできるようになる。それから、地域のステーションというか、そういう感覚がつくられる。
 ユニバーサルハイツというのはバリアフリーですが、大変おもしろいのは、家族と同居している人がここへ移ってくるおかげで、人間関係がかえって稠密になる。家族介護をしていると、子ども夫婦に遠慮して友達もなかなか来ないんだけど、というようなことを言いましたら、逆にそういう早めの住みかえの典型的な事例ですが、そういう形のものを地域展開して、そうするとこれは施設ケアで展開をして、365日、24時間の機能をこういう形で地域化してしまう。そうすると居住施設とサービス施設を、食事まで365日サポートできます。そういうものを一緒にやるという手法で、そのことによって、これはある意味でいえば、将来、在宅について、丸めで給付費を払うという議論だってあり得るだろうと思いますが、そういう形の一つのプロトタイプです。
 それから、これが実は、先ほどの議論でいえば施設機能と住居機能をむしろ分離してしまえという、そういう議論です。これは2003年の12月にオープンなんですが、バリアフリー・アパートをまずつくる。これは民間のデベロッパーというか、例の国土交通省のスキームを使って、高齢者の有料賃貸だと思いますが、バリアフリー・アパートをつくる。そして、それに隣接して、先ほどの通所介護、訪問介護、配食サービス、在宅介護支援センター、居宅介護支援事業所、そういうものをセットにした介護サービス機能をつくる。そして、それをドッキングさせる。
 そうなりますと、要するに今、特養の補助金は住居部分と介護部分とセットで出てきますが、住居部分は民間資金を活用すればいい。そういうことになれば、介護サービスの補助金だけで実質的に運用できる。そういうことの一つの先駆的なモデルだと思いますが、そういう手法が施設の地域展開の典型的な事例だろうと思います。
 これはユニットケアで、ちょっと飛ばさせていただきますが、要するに生活の継続性を尊重し、高齢者のライフヒストリーを踏まえたケア、高齢者の可能性を引き出す、それから地域密着型、そういうことになりますと、これは最後の議論ですが、地域包括ケアシステムという議論を改めて考えましょう。これは後ほどごらんいただきたいと思いますが、要するに、痴呆性介護高齢者をモデルにして、前提にそれを展開をしていくと、必然的に地域ケアという発想になるのではないかというところが一つのポイントであろうかと思います。
 それから、今日はちょっとお話ししませんが、サービスの質の向上。ケアマネージメント等については、後ほどごらんをいただきたいと思いますが、要するに我々の意識としては、ケアマネの機能がこれからかなり機能分解をしていくだろう。とりわけ介護保険の給付の枠組みの中では援助がしきれない生活困難ケースが、ある意味ではケアマネージャーの力量を超えた形で発生をしているわけです。障害者などについていえば、なおさらその辺の議論が重要になると思います。
 「介護保険の見直しに向けて」と書きましたが、1つは、私の意見というよりは、かなり大きな流れ、介護保険のエンジンを使って障害者サービス、とりわけ精神障害、知的、3障害と言われていますが、そういうサービスを介護保険のエンジンを使って展開する、これは必至。
 実は支援費支給方式が、財政的に破綻をしかけております。きのうも大阪でちょっとその話を聞いていたんですが、倍々ゲームで伸びてきていて、従来の公費の仕掛けでは完全にフォローできなくなり始めているのが1年目にして、それははっきりわかっている話なんですが、三位一体改革で補助金はどんどんやせていくという政策方針が決まっている以上、また地方自治体の一般財源で障害者サービスを充実させるというモチベーションは、これから地域差を拡大するという状況を考えれば、制度論としても介護保険に入れることは必至だろうと思います。
 その場合に重要なのは、車体の問題があります。多くの誤解は、高齢者介護保険のスキームがそのまま障害者サービスに持ち越されるだろうという、そういう議論でありますが、おのずからそこでは車体の議論は違うはずだと思っておりまして、それをどういうふうにこれからつくっていくか、そういう議論が非常に重要ですし、そういう意味では介護保険、文字どおり長期ケア保険でありますね。そういうものとして2000年4月以前の議論ではその議論がずっとされていましたが、改めてその議論をしなくてはいけないということ。
 それから、大都市型の地域包括ケアモデルは可能かという議論は、地域包括ケアというのは、急性期医療だけではとてもやれないということで慢性期の対応をして、慢性期の対応をやっていくと、医療だけではサービスが完結しないので、福祉サービス、生活支援サービスを取り込まないとということ、そして、そのために健康福祉科を病院のほうに持っていって、一体的に運用するというモデルですから、これは大都市ではちょっと……。要するに多元的なサービス供給主体、これが医療と福祉にまたがり、福祉サービスが多元的な展開をする中で、改めてそれを調整して包括ケアモデルをつくるとすれば、先ほど平岡委員がおっしゃった議論が、まさにそこら辺の論点を突いておられるかと思いますが、そこら辺をどういう形で志向するか、そういう議論が非常に大きなテーマになるのではないかということでございます。
 あとは、この報告書がかなり丁寧にそこら辺のことを書き込んでおりますので、ご参照いただけたら幸いでございます。時間の関係もあり、ちょっと雑駁なご報告でしたが、以上でございます。
 それでは、議事進行もございますので、議論は一括してということにさせていただきたいと思いますが、これで、委員の皆様、それこそワンラウンドというか、予定をしておりましたご報告はお願いをいたしました。それで、明年の7月に意見具申をまとめて、総会に報告するということでございますが、まずは意見具申までの作業を円滑にするということで、論点整理を少しさせていただきたい。それから、提案の第2点目になりますが、その作業を起草委員会を立ち上げまして論点整理していただいたものを、さらに議論し、次回その結果を皆様にお示しする、そういうことで進めさせていただきたいということを考えておりまして、それでよろしゅうございますでしょうか。
 それでよろしければ、起草委員のメンバーについては、野村副分科会長、執行委員、武田委員、平岡委員、そして私の5名ということでお願いをさせていただければということで、よろしゅうございましょうか。
それでは、論点整理の項目及び起草委員会のスケジュール等について、配付をしていただけたらと思います。
 よろしゅうございましょうか。それでは、事務局から配付いたしました論点整理の項目について、これは事務局のほうでご用意をいただきましたが、ご説明をいただき、その上で、これまでの報告及び資料の内容等についての一括した議論をまとめてというふうに思いますので、事務局よろしくお願いいたします。

○梶原計画調整課長

 それでは、これまでの論点整理の項目ということで、2枚簡単にまとめてございます。本日もご報告いただきまして、さまざまな論点、つまり、これからの福祉ということで、市場が一つのキーポイントになってございます。その上で、論点整理ということでお配りをさせていただきます。
 1つは、前提として、今日のお話の中でもさまざま出てきましたけれども、現在の政策課題、それから国の動向を押さえていくことが必要だろう。ここは当然政策形成ということで、福祉サービスをめぐるさまざまな政策課題、これは、ある面福祉サービスにおける政策が大きく変わってきている。これは、今日のお話の中でも出てきた部分であると思います。
 ここに幾つか書きました。介護保険制度、次世代育成支援、障害者の地域生活、その他ということで、これは大きくとらえれば保険、年金という部分もあるわけですけれども、社会保障、これからの日本の中でどういうふうに位置づけていけばいいのか。これは財政的な面もありますし、供給体制の部分、それからケアという部分もあるかと思いますけれども、さまざまな要素をまず一回ここできちっと押さえる必要があるだろう。
 その上で、大きな流れとしての措置から契約という部分があります。これは、本分科会の中で市場というものが一つのテーマになっているわけでございますので、ここについては市場化というもの、特に高齢、障害、保育というそれぞれの分野における市場原理、その市場というものの中身、あるいは現状、そういうものを整理しておこうということであります。
 その上で、その次でありますけれども、福祉サービス市場の現状と課題。これは、前回報告いただきました、いわゆる利用者、消費者という側面から見たもの、それから、サービスの提供主体の現状、今後の課題。これは、大きく言えば公私の役割分担と福祉多元化の話でありますとか、そういうさまざまなものも含まれる。もう一つは、現在まで大きな役割を担っている社会福祉法人の問題、それから、特に在宅サービスに参入している民間、NPO、ボランティアという問題。それから、今日のお話にも出ましたけれども、東京の特性という部分、これも大きなファクターになるだろうと思います。ここで現状と課題をまとめる。
 その上で、今後、この福祉サービス市場の特性、その市場活用の仕組みづくりということを押さえていく必要があるだろう。疑似市場、準市場と言われる福祉サービス市場の機能と特性、これも今日お話の中に出てまいりました。こういうものを踏まえながら、この市場を活用するためのさまざまな仕組みづくりが必要だろう。ここに例示としてさまざま書いてあります。質の確保・向上の取り組みから利用者支援の仕組みづくり、あるいは事業者の参入、逆に事業者の規制、それから地域ケア・地域ネットワーキングとか書いてありますけれども、きょうの包括的なケアシステムという話も入ってくると思います。それから、若年層を中心とした将来の不安の解消。
 もう一つは、「市場からこぼれ落ちる」というふうに書いてございますけれども、選別主義から普遍主義というお話も今日出ましたけれども、セーフティーネットはきちんと持っていく必要がある。市場というものがしばしば議論されますと、セーフティーネットが一方の極として出てくるわけであります。これは、ある意味で公的な責任も含めて整備をしていく必要があるだろうと、こういう考えでございます。
 その上で、先ほど大都市東京の特性と課題ということがございましたけれども、大都市型のこれからの地域福祉システムの整備・確立を整理してはいかがかと。これは、これまで大都市東京が取り組んできた取り組みとその評価、それから今後の課題、それにおける東京都、あるいは区市町村の役割を整理していったらどうかということでございます。
 その上で今後の日程でございますけれども、先ほど起草委員会ということで、下のほうに書いてございます。今日が10月14日の第4回分科会でございますけれども、今後、10月の下旬から11月の上旬に第1回、第2回の起草委員会を開いて論点整理をし、11月の中下旬に第5回分科会。その後、その段階で全体の社会福祉審議会総会という形で報告をした後、3回、4回の起草委員会、拡大分科会を経て、最終的には来年7月の意見具申ということでの日程を考えてございます。
 お忙しい中、かなりタイトな日程にはなってございますけれども、私ども、こういうスケジュールで進めたいと考えてございますので、よろしくお願いをいたします。
 以上でございます。


○高橋分科会長

 ありがとうございました。
 それでは、今までの報告及び資料の内容について、若干の時間でございますが、ディスカッションができればというふうに思いますので、いろんな意味でご質問等それぞれあろうかと思いますので、よろしくお願いをいたします。いかがでございましょうか。

○新村委員

 何点か、お話を伺っていたり論点整理を見て気になったことを申し上げさせていただきます。
 第1点は、将来を見越して、先ほど平岡委員のお話にもありましたように、東京都は先を見越してやってきたとおっしゃったんですけれども、先を見越すことも重要ですが、今、東京で逆行するような動きが起きている。それは契約から措置へという方向へ、例えば特養の入所などに関しては、家族要件を点数化したり、重度別に選べない形で、主体が点数で順番をつけて入所基準を、これはもちろん過渡期で、今在宅が不十分な中で、特養が非常に足りない。特養希望が非常に高まっている中で。そういう中で何が起きているかというと、逆行が起きているという現実を上手に踏まえた上で、新しい方向を出していっていただきたいということが第1点。
 いろいろ論点を整理していただきましたけれども、最終的に、東京というのは非常に特殊なところだということを前提に、東京の高齢者介護という新しいシステムができないと、4までで一般論をいくら言っても、東京には適用できない部分があるのではないかという感じを非常に強く持っております。それの中でも、特にこれからの高齢者の特徴をきちっと踏まえなくてはいけない。
 これは前にもどなたかからお話があったと思いますが、今の高齢者とこれからの高齢者はかなり違う。私が高齢者になると、今私が一緒に住んでいる母親とは、ライフスタイルから好みからすべて違うなと。多分、高橋分科会長も同じ世代だと思いますけれども、そういうことを踏まえた上での仕組みづくりをしないと、要するに満足度の低い制度になってしまうのではないかというようなことを思いました。
 それからもう一つは、競い合いといいますか、準市場、準市場とおっしゃいますけれども、競争が非常にうまく使われるといいと思うので、行政の介入というのは外枠の中で、競争するシステムがきちっと機能するような外枠をつくることに徹底したほうがよくて、競争の中にあまり手を突っ込まないほうがいいのではないかという感じを持っています。そうすると、福祉といいますと、社会福祉法人の位置づけをもう一度きちっと見直さないと、うまくいかないのかな。
 雑駁ですが、そんな感想を持ちました。以上でございます。

○高橋分科会長

 ありがとうございました。
 今のご意見に即しつつ、少しまた別の角度でご意見をいただけたらと思いますが。

○武田委員

 まとまった意見というよりは、感想レベルになってしまいますけれども、平岡委員がおっしゃったとおり、確かに選別主義から普遍主義、これは動かしようのない流れだろうと私も思います。普遍主義になっていくということは、イコール対象が当然拡大していくということにほかならない。そうなったときに、何が起こるのか。例えば東京都の施策における典型的なケースとして、これまで社会福祉法人が施設をつくるときには、その土地の取得代の補助までやっていた。地域による状況の差、特に大都市問題ということからいえば、地価の高さ、もろもろの賃借料の高さ、そういった場代の差を、選別主義であれば税財源で埋めていくことによって縮小していくことである程度解消が可能だった。しかしながら、これが普遍主義化していくことによって、そうした施策は全面的にはとり得なくなってくる。
 「狭く濃く」という状態から「薄く広く」になってきたときには、地域差が埋め切れない状態が出てくる。要するに、税財源は薄く投入しかできないという状況になってきたとき、財布は限られているわけですから、そうなると結局、利用者の負担力の問題が必ず出てくることになる。ですから、大都市問題、特に大都市型の地域福祉システムをきちっと位置づけていくためには、どういった収入なり負担能力がある人たちに対して、最終的にはどれぐらいの負担を求めることが適正なのか。こうした負担の問題というのは、きっと避けて通れないだろうな、という気が非常に強くいたしました。
 私の報告のときにも申し上げましたとおり、東京は土地代も高ければ住居代も高い。先ほど高橋分科会長の報告の中にもありましたとおり、公有地といったスキームは、比較的田舎の方では使いようがあると思うんですけれども、ほんとうに都市部で、できるのか。都市部で単に公有地を使ったところでそんなに下がらないのではないか。どっちにしてもかなり高額な家賃がかかってくるという中で、トータルでの負担をどれぐらい求めていくのかというところを論点の中に入れていかなければいけないのかなと、そんな気がいたしました。

○高橋分科会長

 ある意味では大変頭の痛い問題というか、東京の制約というか、その議論をどうしても考えざるを得ない。そうすると、それは逆に言うと、逆行というふうに新村委員がおっしゃったような現象が、サービス資源が不足している中で明らかに起こらざるを得ない、そういう状況もあるわけですが、平岡委員、何かコメントあります。○平岡委員 それぞれ非常に重要なご指摘だったと思うんですけれども、一言つけ加えるような形になりますが、高橋分科会長がご報告された高齢者ケアの今後築いていくべきシステム、非常に説得的な議論だと思うんですが、その場合に、社会のシステム全体がそういうものを可能にするような形に変わっていかないと難しい面もあって、例えばケアの必要度に応じていろいろな住まいを選択するということも、ある程度住宅の住み替えをしていくような仕組みが定着しないと、なかなかうまく機能できない面もあるということもあると思います。また、ホテル・コストなら自己負担するのは当然だと思うんですが、そういう場合に、高齢になって相当巨額の医療費とか介護費を負担せざるを得なくなるというリスクをうまくプールするような仕組みで、私的なものも含めて介護保険とか、医療保険が有効に機能する。という形になっていって、過剰に貯蓄しなくても老後は安心だという形になっていかないといけないんですが、現実にそういう方向で政策が全体として動いていくかどうかという問題があるので、老後生活の中で介護の問題は大きいわけですから、いろんな政策分野の政策が整合的であることが重要じゃないかということを、あまりにも当たり前の話なんですけれども、改めて感じた次第です。

○高橋分科会長

 ありがとうございます。
 よく言われるのは、もちろん格差はあるんだけれども、高齢者のストックは相当ある。ただ、それが、こういう介護サービス市場で有効にうまく流れてくるような条件が、必ずしも整備されていないし、それが目に見えるメリットとしてなかなか戻ってこない。一方で富裕な高齢者が厳然として存在する。他方でセーフティーネット、ここでは市場から排除されやすいというか、脆弱なというか、そういう生活条件の高齢者と格差がますます大きくなってきて、そうするとフェアネスというか、公正さということに対する議論をどういう形で仕掛けを考えるか、それはかなり深刻な問題になり始めているなという、そんな実感があるんですが、何かどうぞ。

○白石委員

 貴重なご報告をありがとうございました。何点か気づいた点といいますか、雑駁な感想レベルだと思いますけれども、まず1点目は、今の社会的セーフティーネットのことなんですが、多分、落ちてくる人たちの量も増えていくからネットを強くしていくのか、ネットを大きくしていくのか、ネットの存在意義とはどういうものなのだということを議論しない限りは、社会的セーフティーネットの維持・整備と言っても、多分発散傾向になってしまうと思うんですね。落ちてくる人が多くなるわけですから、当然今の財政状況からいうと、ネットを今までどおりの形にしておくと、そこからさらにこぼれていく人もある。この社会的セーフティーネットの役割をこれからどう考えていくのかということが、1つ重要な議論になっていくのではないかなと思います。
 2点目が、福祉サービス市場というふうに言っても、狭義にとらえるか、広義にとらえるかで、ここにお書きいただいているような論点整理、いろいろ広げて考えていくのは、時間の制約の中で賢明な手段ではないと思いますけれども、多分、先ほどおっしゃったように痴呆の場合でもいろいろなケースがあって、そこに介入していって早期に手だてをすることによって、例えば医療の面で投薬をするとか、集中的なリハビリをするようなことで、より重度なケースにならなくても済むような場合が多々ある。これは、これから増えていく高齢者の健康をどう維持していくかということを考えた場合、従来の福祉介護だけの産業ではないところの役割発揮も随分大きいと思うんですね。そういう点についても少し論じていく必要がある。例えばスポーツクラブとか、高齢者の余暇市場なども、こうした点の役割発揮をしていくことがあるので、そういう情報提供をどうしていくかというようなことも、私はぜひ記述していただきたいなと思います。
 もう一点は、以前、私、見学させていただいたところがあるんですが、奈良のエスティームライフという大阪ガスがやっている、これはすばらしく夢のような施設なんですね。1億円程度だったと思いますが、入居金が必要で、月々の賃料は100万ぐらいになるんですが、これを払っていらっしゃるというような立地は、奈良とか帝塚山という非常にストックが豊かな高齢者の人たちが後背地にいるということで、ほぼ100%痴呆の方が入居していらっしゃるんですけれども、この高額の賃貸料が払えるというのは、高齢者が持っている住宅を現金化して、それでも第三者の手にゆだねるほうが、家族の幸せのためにいいということを子どもの世帯がしていらっしゃる選択の結果なんですね。
 千代田区などでも、高齢者が広い戸建てに住んでいて、そこの資産価値が非常に高いということを考えれば、こうした住宅を活用することをぜひお考えいただきたい。今、あるディベロッパーなどが非常に業績を伸ばしているんですけれども、ノンリコースローンというものを組み合わせて、新しくマンションを建てるんだけれども、借金はその世代だけで終わりというような方策を組み込んで、高齢者が生きている間はそこで不労収入を得て、自分の生活の手だてにしていく。借金が子どもの世代に残っていかないということを民間でやり始めているんですね。
 こうした高齢者が持っている資産を出していただく。そこについては税の軽減をしますとかいうことを組み込んで、高齢者住宅を建てて、そこをNPOに任せていくというように、本来福祉がやるべきことではない、税とかインセンティブを組み合わせながら、高齢者が持っている資産活用ができるようなヒントがそこにあるのではないかなと思いますので、こうしたこともご検討いただければというふうに感じた次第でございます。
○高橋分科会長 ありがとうございます。これも大変示唆に富んだご発言をいただきました。リバースモゲージという議論がずっとやられていて、それがなかなか機能しないというところがあって、どうも社会システムとの関係がありそうだなと思っているんですが、そこら辺も少し検討をできたらというふうに……。福祉サービスと、それをめぐる環境的な要因というか、それの相互作用を少しきちんと整理した議論が必要かなというふうに思います。ありがとうございました。
 ほかに何かご発言。

○新村委員

 リバースモゲージ絡みで一言。おととしですか、NIRAでそういう研究会をやっていたんですけれども、結局、リバースモゲージを考えた最初のあれは、今住んでいる家をうまくフローの収入化して、ここに住み続けたいという意向が高齢者に非常に強いという前提で、いろんなことが走っていた。ところが、いろいろやってみると、特に広い戸建てに住んでおられるような方は、決してそこでQOLがいいわけじゃないというような発想に今変わりつつあるし、私の世代はもう既に、資産というよりはファンクションとしての住宅に重きを置き始めた世代だろうと思うんですね。そうしますと、先ほど平岡委員がおっしゃったと思うんですが、住み替えが上手にできるような、そして親の土地や家を子どもがあてにしないような仕組みを上手につくっていかなくちゃいけないのではないか。それは特に相続の話などが入ると、東京都レベルでどこまでできるかわからないけれども、少なくともそれを議論する必要はあるだろうと。
 それから、ようやく定期借家権制度が導入されたんですけれども、借家権というようなもの、そういう借地・借家制度を上手に使っていって、それへの提言もできたらいいし、高齢者が借家に住むなんてとんでもないという意識自体も少しずつ、終身借家権ができましたので、変わってきつつあると思うので、住宅問題はもう既に在宅365日、居宅支援でという提言が出ているということは、住宅問題は避けては通れない。それから、税金、相続が避けては通れない。その辺のところを、特に東京の総体的にリッチな高齢者を相手にする場合には、考えなくちゃいけない。
 フローの所得は福祉年金しかないけれども、家を持っている方も結構いらっしゃるんですね。だから、そういう意味ではセーフティーネットといっても、例えば介護保険の保険料をフローの所得で格差をつけたりしていますけれども、それ以上はミーンズテストになっちゃうので、受け入れられないかと思うんですけれども、どこかでセーフティーネットを考えるときには、先ほどおっしゃったように「でも、あの人は貯金がいっぱいあるのよ」みたいな話にならないような、そこいら辺への目配りが要るかなというふうに感じております。

○高橋分科会長

 ありがとうございます。これからの議論に反映をさせていただければと思いますが、どうぞ、武田委員。

○武田委員

 今の新村委員のお話、社会保障の考え方の根っこのところに非常に大きくはねるだろうと思うんです。例えば、先ほど私も申し上げたとおり、結局、税の投入が、これまでと違って薄くなっていくという状況の中で、本人負担の問題がクローズアップされる。これは、例えば私どもが事業をやっている中で、ご入居者の実際の経済状況を肌身で感じるわけですけれども、「所得」と「負担力」の間には実はほとんど相関関係がないんですね。先ほど白石委員もおっしゃったとおり、セーフティーネットというときには、通常、所得で見ることになりますけれども、所得とほんとうの負担力の乖離が大きいということでは、セーフティーネットを考えるときも、このあたりの問題は非常に大きくはねてくる。
 例えばフランスの社会保障の根本的な考え方は、低所得者に対して税金を突っ込むということではなくて、貸し付けるわけですね。結局、最後お亡くなりになったときに、相続分からそれまで貸した分を返してもらうよ、という根本的な発想の違いがあるわけです。東京都社会福祉審議会としてどこまで踏み込めるか、というのはあるわけですけれども、根本的な理念のところは一度議論したほうがいいのかなという気はいたしました。

○高橋分科会長

 なかなか難しい課題でございまして、まさに東京問題なんだけれども、それは、それこそオール・ジャパンで議論する話と東京の問題と、しかし政策変数として東京をここでハンドリングできるかというと、できない世界があって、そういうギャップをどういう形で考えていくか。これはある意味で世論形成というか、そういう回路をとらざるを得ない課題の指摘と同時にという、そういうテーマでもありますし、そこら辺はきちんと整理をしていきたいな。ただ、オール・ジャパンとして議論すると、東京都が常に二重括弧にくくられてきたという議論が問題なので、そこら辺はこれから少しまた分科会で改めて課題提起させていただければと思いますが、いかがでございましょうか。そんなところで、そろそろ時間でございますので、これからの進め方について事務局のほうから。

○梶原計画調整課長

 さまざまなご意見ありがとうございました。私もいっぱい言いたいことはあるんですが、起草委員会の中で議論したいと思っています。
 次回の開催でございますけれども、この分科会自体につきましては、11月18日の10時から12時、午前中ということで、場所は都庁第1庁舎33階のN6ということで予定をしてございます。次回につきましては、今回、皆様にお示しした論点整理の項目、それから、先ほどさまざまなご意見をいただきました。その中で起草委員会でご議論していただきまして、その結果を素材としてご審議をしていただきたいと思います。次回論点整理していただいたものを当分科会の中間報告ということで、社会福祉審議会の総会にご報告することを予定しております。どうぞよろしくお願いをいたします。

○高橋分科会長

 ありがとうございました。
 それでは、そういう形で進めていただきますので、起草委員の皆様方、ひとつよろしくお願いをいたします。
 それでは、きょうの審議会は、定刻でございます。ありがとうございました。

(午前11時56分 閉会)

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