409ページから411ページ 第8章 報告書の上梓に当たって 本調査の実施に当たっては、福祉局内(令和5年6月までは福祉保健局内)に学識経験者、各障害者団体代表者、障害当事者代表及び都関係各部代表者からなる調査検討会(以下「検討会」という。)を設置し、調査内容、調査方法とうについて議論を重ね、検討を行った。この章では、検討会での検討の経緯を振り返るとともに、検討会で議論された次回の調査に向けての課題や調査結果の活用に関する意見を記載する。 検討会の設置、開催の経緯とうについては、14から15ページ「第1第2章 調査実施とうの経過」参照 1 検討の経緯とう 前回平成30年度調査の検討会委員から寄せられた意見を踏まえ、調査対象、調査方法、調査項目、調査票の質問文・選択肢などについて見直しを図った。 まず、調査対象については、前回調査の報告書において、近年の精神障害者福祉保健手帳所持者の増加に伴い、精神障害者の調査対象数も増やすべきとの意見があったことから、対象数を400人増やし、知的障害者及びなんびょう患者と同数の1,200人とした。 調査方法については、これまで対象者全員を調査員の訪問による調査としていたところ、郵送による調査を原則とし、インターネット調査も併用した。調査員の訪問調査を希望されるかたには、調査回答のために必要な配慮を行った上で、調査員が対象者宅を訪問し、聞き取り調査を実施した。この調査方法の見直しは、過去の調査において、調査員の訪問によらず調査票の郵送により調査に回答したいという要望が一定数あったことを踏まえたものである。 調査項目については、調査結果の経年比較のために過去の調査項目を継続して聞く必要があり、設問数の追加は回答者の負担増につながることから、必要性を精査した上で、東京都手話言語条例(令和4年6月22日条例第110号)施行を踏まえた設問などを新たに追加した。また、既存の調査項目についても、質問文や選択肢の意味が回答者に正しく伝わり、より正確な回答ができるようしたほうがよいとの意見があったため、選択肢の修正や追加、補足説明などを行った。また、前回調査との社会的背景の変化として、新型コロナウイルス感染症の影響についても、自由意見記載欄を設けた。 集計の方法については、障害者及びなんびょう患者の生活実態を多角的な視点から分析できるよう、クロス集計表の充実について意見があり、前回調査で作成したクロス集計表に加えて、新たに204ひょうのクロスひょうを追加し、合計1,983ひょうとなった。例えば、障害程度区分の違いによる介護保険サービスの利用状況を比較・分析できるよう、身体障害者となんびょう患者について介護保険の利用の有無・要介護度と障害支援区分などについて新たなクロスひょうを作成した。また、極めて多岐にわたる自由意見について、障害種別ごとに内容の類似性に基づき集約し、選択肢だけでは示せない当事者の声を示すものとして、より具体的に示す工夫を行った。 2 次回調査に向けた課題・意見  本調査の実施で明らかとなった課題は、以下のとおりである。 1調査回答の回収率についてである。今回の調査では全体として72.1%の回収率となり、前回(64.6%)と比較し、7.5ポイント上昇した。前回調査の課題を踏まえて調査方法や調査項目など様々な見直しを行った成果と思われる。一方で、5月に行った事前調査において「調査に協力できない」という回答も数多く寄せられた。次回調査においては、より多くのかたに調査に御協力いただけるよう、このような回答をされたかたの「協力できない理由」について分析を行う必要がある。 2調査票の改善についてである。今回の調査では、前回の意見を踏まえ調査票の文字にユニバーサルデザインフォントを使用したことやレイアウトを見やすくするなどの工夫を行ったことで、調査票が見づらいといったご意見はほとんどなかった。一方で、個別の設問について、特に障害者総合支援法による障害福祉サービスの利用状況については、無回答が多くみられた(85ページ、153ページ、223ページ、300ページ)。今回多くの対象者が郵送又はインターネットで回答したことから、障害福祉サービスの理解が難しかったことが要因として考えられる。障害福祉サービスに関しては、前回調査と比較し「利用している」と回答したかたの比率に大きな変化は見られないことから、「利用していない」と回答されていた層の対象者が一定程度無回答になったと思われる。障害福祉サービスの利用の有無の回答に際しては、サービスや制度の理解が不可欠であるため、次回調査で同様の質問を聞く場合は、対応策について検討が必要と思われる。 3調査対象者への配慮についてである。今回初めて郵送・インターネット調査を行ったが、大きな混乱もなく、多くのかたに御協力いただくことができた。次回調査においても障害の特性や障害程度に配慮した調査方法を検討していく必要があると思われる。 4調査項目についてである。自由意見の中で、「質問が多い」、「回答に時間がかかる」など調査への回答の負担が大きいとの意見が寄せられたため、新たな設問の検討に当たっては配慮が必要である。また、特に知的障害のあるかたからは、「ぶんしょうがむずかしいのでかけません。」といった御意見や、御家族からも「本人が回答するには難しい。」といった御意見が複数寄せられた。今回、知的障害のかた向けの調査票は、よりやさしい日本語に表記を変えるなどの工夫も試みたが、より一層の配慮について検討が必要である。 5調査結果の集計についてである。今回自由意見において新型コロナウイルスの影響が多く寄せられており、日常生活における様々な影響が統計数字にどう表れているかについては、留意が必要だと思われる。 6検討会の運営についてである。前回調査では計4回の開催であったが、今回は初めて郵送・インターネット調査を導入すること及び精神障害者の調査対象数を増やすこともあり、調査実施前年度の令和5年3月に事前検討会を実施した。この事前検討会では、5月の事前調査の調査票について検討を行うとともに、前回調査の振り返りや調査実施への要望などの意見交換も行うことができた。事前検討会については、次回調査においても調査内容の大幅な変更などがある場合など、必要に応じて実施することが望ましいと考える。 3 本調査結果の活用について 本報告書は、障害者の生活実態や意識を把握する調査の結果として、障害者に関する施策を検討する際に大いに活用されることが期待される。一方で、アンケート調査による量的調査には限界もあり、数値のみが施策の検討に当たって一人歩きしないよう十分に留意すべきである。 例えば、回答者の年齢階級は各障害者及びなんびょう患者によって異なっているため、障害者及びなんびょう患者の調査結果を比較する「第2 第6章 身体障害者・知的障害者・精神障害者・なんびょう患者の状況(319から344ページ)」における各障害者及びなんびょう患者の結果の違いは、障害(なんびょう)の種類によるものだけでなく、回答者の年齢階級の違いによるものも含まれていると考えられる。このような観点から、同章の「7(1)収入を伴う仕事の有無(332ページ)」については、各障害者及びなんびょう患者の回答者の年齢を65歳未満に限定したグラフを掲載している。 また、この調査が身体障害者手帳、愛の手帳及び精神障害者保健福祉手帳の所持者並びに東京都なんびょう医療費とう助成制度(調査基準日現在の助成対象は346疾病)の認定者を対象としていることから、手帳を所持しない障害者は調査対象に含まれておらず、この調査のみで都内在住の全ての障害者の状況を把握することについては難しい面もある。 このような制約はあるものの、本調査は昭和48年度から実施しており、統計の手法に基づいて経年的にも比較できる貴重な資料となっていることから、障害者施策を中心に、福祉・保健・医療施策推進の基礎資料として広く活用することが望まれる。この調査報告書の各章の内容及び令和6年12月に公表するクロス集計結果について、行政にとどまらず、大学とうの研究機関など様々な立場から詳細な分析がなされることを期待する。 特に、障害者施策に関する基本計画としての性格を有し、基本理念のほか、広範な施策分野にわたって達成すべき目標とうを定めた「東京都障害者・障害児施策推進計画」の策定に当たっては、東京都障害者施策推進協議会とうの検討の場において、本調査結果を踏まえて注意深く、丁寧に審議していただき、障害者施策が一層充実することを強く望み、本章の締めくくりとしたい。