こころの健康だより .140 2024年6月号 特集 「誰もが支え合い、共に生きる社会へ」 もくじ ●改正精神保健福祉法の施行について 〜人権を守り、共に生きる地域社会へ向けて〜 2 ●精神障害のある人を地域で支えるしくみ ―Aさんを通して考える― 4 ●自然の中で生まれる“つながり”への期待 〜誰もが支えあい共に生きる社会をめざすはちまるサポートの取り組み〜 6 ●特別コラム「令和6年能登半島地震における東京DPATの活動」 7 ●東京都の令和6年度「精神保健医療予算」の概要 8 改正精神保健福祉法の施行について 〜 人権を守り、共に生きる地域社会へ向けて 〜 相模原市健康福祉局地域包括ケア推進部参事(前中部総合精神保健福祉センター所長) 熊谷 直樹 はじめに 本年4月より、2022(令和4)年に改正された精神保健福祉法(以下、法)が全面施行されています。本稿では、法改正の概要を紹介し、その意義や課題について述べます。なお、法改正や関連通知等の詳細は厚生労働省ホームページ1)などでご確認ください。また、文中の都道府県は、法の大都市特例により政令指定都市も指します。 主な改正点 1)法の目的や法での「家族等」に関する改正 目的規定への「権利擁護」の追記:法の目的を記した第1条に、「精神障害者の権利の擁護」が追記されました。 法での「家族等」からDV等加害者を除外:医療保護入院の同意や退院等の請求などができる「家族等」から除外される者に、DV・虐待等の加害者が追加されました。 2)精神科入院制度関係の改正 書面告知の見直し:医療保護入院等の本人の同意によらない入院(非自発入院)に際しての書面告知の事項に「入院の理由」が追加され、告知の対象が入院同意をした家族等に拡大されました。 医療保護入院の見直し:医療保護入院の期間に期限が定められ、期間を更新するためには、精神保健指定医の診察と医療保護入院者退院支援委員会の審議、家族等の同意が必要となり、更新届の提出を行います。更新届は精神医療審査会での審査の対象です。期限となる入院期間は入院後6か月までは3か月間、それ以後は6か月間です。また、家族等が同意・不同意の意思表示をしない場合、区市町村長の同意による医療保護入院が可能となりました。 措置入院時の入院必要性の審査:措置入院時における入院の必要性について、都道府県の作成した措置入院決定報告書が、精神医療審査会の審査を受けます。  退院促進措置の拡充:医療保護入院者に加えて措置入院者に対しても、退院促進措置を病院が行うこととなりました。退院後生活環境相談員の選任のほか、入院者または家族の希望に応じて、地域援助事業者の紹介も義務となりました。退院後生活環境相談員の選任対象に公認心理師が、地域援助事業者に障害福祉サービス事業者が、それぞれ加わりました。 入院者訪問支援事業:区市町村長の同意による医療保護入院者など、面会の機会が少ない等の理由により、第三者による支援が必要と考えられる者に対して、入院者の希望に応じて、訪問支援員を派遣し、傾聴や相談、情報提供等を行う新たな事業です。都道府県の任意事業です。 精神科病院での虐待の防止対策:病院職員による精神障害者への虐待防止のため、病院管理者には、虐待防止のための職員研修の実施及び普及啓発、虐待に関する院内の相談体制の整備などが義務づけられました。また、病院職員による精神障害者への虐待を発見した場合は都道府県への通報が義務となりました。都道府県は通報を踏まえて、実地監査で患者を診察したり、立入検査や診療録等を報告徴収したりし、病院管理者に改善命令等を発することができます。さらに毎年度、都道府県は虐待の状況や対応等について公表することとなりました。 3)市町村等が実施する精神保健に関する相談支援 対象の拡大と包括的支援:保健、医療、福祉、住まい、就労その他日常生活に係る精神保健に関する課題を抱える者が、精神障害者以外の者も含め、都道府県・区市町村の行う精神保健相談支援の対象となりました。またこれらの者に対して、心身の状態に応じた適切な支援の包括的な確保を旨とすることが明記されました。市町村等は包括的な支援体制の整備のため、地域自立支援協議会等を活用して、関係者の協議の実施に努めることが義務となりました。 都道府県、精神保健福祉センター等による技術援助:区市町村の精神保健相談支援に関し、都道府県は精神保健福祉センター、保健所等により技術援助を行うよう努めなければなりません。なお、今回の改正に関連して、国は「保健所及び市町村における精神保健福祉業務運営要領」及び「精神保健福祉センター運営要領」を改正しました。 法改正の意義と課題 今回の法改正の意義として、精神科入院者の人権擁護における一定の改善や、入院者への地域の支援のつなぎの拡大をまず挙げたいと思います。そして「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」*(以下、「にも包括」)構築を法的に裏付け、市町村を基盤とした「にも包括」の構築を推進し、地域共生社会**の実現に向けた地域の取組に役立つ意義も重要と思います。 一方、次のような課題もあると考えます。まず、家族同意による医療保護入院をはじめ、精神科独自の非自発入院制度は残り、他の診療科との関係はなお整理を要することです。今回の法改正に先立つ国連障害者権利委員会の対日審査では、非自発入院制度の廃止や一般医療との区別の解消など、精神科医療に関する勧告がなされています。 次いで市町村における精神保健相談支援の普及・充実です。市町村の精神保健相談支援自体は努力義務に留まり、区市町村間に差が生じる懸念があります。 そして、自治体の人材確保・育成です。精神保健課題のある者への効果的な相談支援を市町村において実現するためには、その担い手となる保健師や精神保健福祉士等の専門職員の確保・育成が不可欠です。都道府県では、院内虐待防止対策等の適切な運営や、審査対象の拡大する精神医療審査会の事務などを行う人材の確保・育成も必要です。 おわりに 本年度は、第7期障害福祉計画や第8次保健医療計画等が同時に開始され、障害福祉サービス等報酬および診療報酬の改定も実施されます。いずれも、「にも包括」の構築を促す内容です。これらの改定を活かして、改正法の趣旨に相応しく、人権の擁護と地域共生社会の実現に向けた取組を、地域の実情に応じて推進することが望まれます。 * 精神障害にも対応した地域包括ケアシステム:精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らしてゆけるよう、医療、障害福祉・介護、住まい、社会参加、地域の助け合い、普及啓発が包括的に確保された支援。国は地域の実情に応じた「にも包括」の構築を推進。 ** 地域共生社会:制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民の暮らしと生きがい、コミュニティをともに創っていく社会。その実現に向けた区市町村の取組を、社会福祉法に基づき国は推進している。「にも包括」は、地域共生社会の実現のために不可欠なシステムとされている。 参照情報 1)厚生労働省:令和4年精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正について. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kaisei_seisin/index_00003.html 精神障害のある人を地域で支えるしくみ ― Aさんを通して考える ― 特定非営利活動法人江戸川区相談支援連絡協議会   理事長 吉澤 浩一 1.Aさんの「ホンネ」 「施設は自由がないから嫌なんだよ。なんとかならないかなぁ。」 50歳代、統合失調症の診断のあるAさんは、精神障害者保健福祉手帳1級の「重い」判定を受けています。Aさんは長らくアパートで独り暮らしをしていましたが、ある時、小火を起こし、大事には至らなかったものの、暮らし慣れたアパートを離れざるを得ない状況となりました。医師等からは「地域生活を続けるのは難しい」と言われ、Aさんも「仕方がない」とグループホームという支援付き住居を探し始めました。しかしそもそも空室は限られ、空きがあっても受入れを考えるグループホームは数か月間見つかりませんでした。 そんな中、Aさんから「ホンネ」が伝えられました。 小火の理由は「部屋の角に女性が立つようになったから」。追い出そうと火を向けたところ引火してしまったということでした。Aさんはこれが「幻視」だと理解していました。「きっと理解されない」「入院するかもしれない」と思い、Aさんは症状を周囲に伏せ、自分なりに対処方法を模索していたのでした。 2.生活のしづらさ 1)相談のしづらさ Aさんは、本当は症状についてもっと早く相談できたのかもしれません。しかし一方的な思い込みもあって、相談せずにいました。 では、この一方的な思い込みは何故生じたのでしょうか。理由の一つに、社会が人の多様なあり方を十分に受け入れられないことがあると考えます。幻視のことを話しても理解されない、奇異な目で見られるといった思考には、誰もが陥ると思います。信頼できる人に対しても、安心して症状について話をしてみようと思えるようになるには、エネルギーや時間が必要なのです。 またAさんは自分の希望を初めから言えませんでしたが、そこには支援する側とされる側との間に生じた関係性が影響していた可能性があります。「普段からお世話になっている」ため「ホンネ」を言いづらいと口にされる方は多くいます。「相手は専門家だから」という見方をしていれば、さらに言いづらさは増します。Aさんにとってもグループホームの提案は「お世話になっている専門家」の意見に他ならなかったのです。 2)住まいの確保しづらさ グループホームが見つからない中、私はAさんと物件探しをし始めましたが、一筋縄ではいきませんでした。 Aさんにはいくらかの財産はあるものの、収入はありませんでした。「何故収入が無いのか」と不動産会社から訊かれ「障害があるため」と答えればそれだけでほとんどが断られました。Aさんの支援では、居住支援法人という、住宅の確保が難しい方への支援等を提供している団体に相談しましたが、収入の無い理由を「糖尿病や足の不自由さ」として「障害」という言葉を伏せる方針としました。 Aさんは、数か月かかりようやく物件にたどり着きました。しかし当然ながら、新しい環境のため周りに知人はいません。精神障害があると周囲に話す必要は全くなく、知られることも無いのですが、いつ自分が「精神障害者」と知られるだろうかという不安が膨らんでいきました。 3)日常生活のしづらさ 私たちは日常的に、あまり難しさを感じることなく水道や電気、電話等を使い、またスーパーやコンビニ、理髪店、金融機関、交通機関等を利用していますが、Aさんはインフラを維持すること、誰もが当たり前に利用する生活資源を利用することにも支援が必要でした。洗濯や掃除は少しできましたが疲れやすく、食事のバランスを考えること、お金や薬の管理も苦手でした。 Aさんにとって、これらを支援する体制が整えられないことは「生活できない」に等しいです。転居前は、毎日ヘルパーが家事を支援し、日常生活自立支援事業の支援員が公共料金の支払も含めやりくりを支援していました。精神科医が隔週で訪問診療し、週に3回訪問看護師が薬や健康状態の管理を行いました。地域活動支援センターが毎日の居場所であり、理髪店の予約やヘルパーが応じきれない臨時の通院に応じる等、隙間の支援をすることもありました。そしてこの支援体制全体の調整等を私が相談支援専門員の立場で行いました。 Aさんは転居と同時に転居前と同様の支援体制を必要としましたが、転居先では居場所を見出せず、ヘルパー支援探しに苦慮しました。なんとか本来の支援対象地域を超えて支援をしてくれるヘルパー事業所に行きつきましたが、その事業所が応じられなくなった場合は他に手がありません。居場所も転居後に考えることとし、課題が残されたまま新生活を始めました。 3. 精神障害のある人を地域で支えるしくみ 私はソーシャルワークに携わり25年近く経ちますが、この間、掲題の「精神障害のある人を地域で支えるしくみ」は制度的にも大きく前進し、支援を提供する事業所も人も増えたことを実感しています。Aさんは「重い」判定を受けていますが、多くの社会的な支援を活用し、一人の地域住民として今日も暮らしています。 ただし、しくみが十分に整ったとは言い切れません。現にAさんは多くの「生活のしづらさ」を抱えています。それぞれの支援は根拠となる制度等が異なり、具体的に相互の連携を促すしくみと、実際にしくみを活かすため意識や知識の醸成が必要です。また全体を見れば「地域差」の解消も必要です。無理解や偏見等は、払拭されなければいつまでも周囲に「ホンネ」が発信しづらく、居住の課題に象徴されるような「後ろめたさ」や「恐怖感」に似た感覚を理不尽に持ち続けなければならない状況も変わりません。本稿では詳しく扱いませんが社会的な理由で入院している方も未だ多くいます。 しかし、これからさらに明るい方向へ変わっていく兆しが見えてきたのではないかとも感じています。 「地域共生社会」が我が国の福祉の理念として、また「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築」が精神保健医療福祉の政策理念として掲げられる中で、誰もが安心して地域で暮らし続けるためのしくみの一つとして「地域生活支援拠点等」の整備が強調され、「基幹相談支援センター」と連動して地域の体制づくりが進められることになりました。この地域の体制づくりは、障害当事者等と行政、民間事業所等が互いに十分にコミュニケーションを取らなければ進められません。協働のしくみが各地で拡がり、埋もれていた社会課題も顕在化していくはずです。 また精神障害が誰にとっても「我が事」になるにはまだ遠い道のりかもしれませんが、少しずつ身近になってきていることは間違いないと感じています。障害当事者が自らの経験等を支援に活かす「ピアサポート」は制度的に活動根拠を拡げ、正しい知識と理解に基づき身近な人に寄り添う「こころのサポーター」も小学生からお年寄りまでを対象に拡がりつつあります。新学習指導要領に於いては小中高とメンタルヘルス及び精神障害について触れることになりました。さらに、制度的な働きかけではありませんが、経済的低迷、各地で続く災害、新型コロナ感染症の流行等はメンタルヘルスが重要であるとの認識を強く促す出来事でもありました。メディアでの扱いも増え、扱われ方も配慮されるようにもなりました。 今後さらに少子高齢化やグローバル化等が進み、社会の価値観は益々多様化していくと考えられます。精神障害のある人を地域で支えるしくみも、時代の変化に合わせ考え続けなければなりません。しかし必要な根底は変わりません。幸せの語源は「なしあわせ」と言われるそうですが、誰もが互いに理解し合い、互いのことを考え行動し合う、そんな社会がつくられていくことを期待したいですし、自分自身も試行錯誤しながら寄与していきたいと思います。 ※事例は個人が特定されないよう加工しています。 自然の中で生まれる“つながり”への期待 〜誰もが支えあい共に生きる社会をめざすはちまるサポートの取り組み〜 八王子市社会福祉協議会 支えあい推進課    課長補佐 西田 佳子 八王子市が設置し、八王子市社会福祉協議会が受託運営する八王子市まるごとサポートセンター(以下、はちまるサポート)では、地域の様々な困りごとの相談に対応しております。近年、地域生活課題の複雑化・複合化が顕著となり既存の福祉サービスだけでは解決できない例が増えております。現在市内13か所に整備されている各はちまるサポートには、毎日様々な相談が届きます。ひきこもりについてご家族からの相談や、ごみをため込む状態で暮らす方について近隣住民からの相談、8050問題の世帯に関する民生委員からの相談など、課題も年齢層も本当に多岐にわたる内容が日々寄せられております。 複雑かつ多様化する相談に対し、はちまるサポートの相談員であるコミュニティーソーシャルワーカー(以下CSW)は、相談内容によって機関や地域資源を見極めて適切な支援先につなげたり、支援が必要な方との関係構築に努め長い時間をかけ伴走しながら社会参加につなげたり、寄り添いながら根気強く支援を行っております。CSWは、課題を抱える本人が自ら問題解決ができるように、地域資源と本人をつなぐコーディネート役を担っております。その際、福祉の専門職や事業所等と連携するだけでなく、地域の民生委員やボランティアのお力を借りたり、サロンや子ども食堂など地域活動を活用したりしながら、その方にあった解決方法を探します。地域資源とのつながりを活かした支援を行っていることは、地域とのつながりを強みとする社会福祉協議会ならではの特徴といえると思います。 不登校やひきこもり、精神障害など様々な状況により生きづらさを抱えた方々は、コミュニケーション等の問題から地域との交流が希薄であったり、社会と関りがもてない状態でいたり、孤立した状態でいることが多くみられます。せっかくはちまるサポートに相談がつながったとしても、そのような方々が社会参加できる場が地域には少なく、既存の地域資源につなげることが難しいことが多いことにCSWは悩んできました。そこで社会参加への第1歩目となる心地よい居場所になればとの想いから、農作業をしながらゆるやかに過ごすことができる「はちまるファーム」の活動をはじめました。 八王子の豊かな自然を活かした活動を始めるまでにはCSWが農家の方との関係づくりや農作業の勉強を行うなど、様々な苦労がありました。そのような苦労を経て、今では毎週木曜日に定着した活動となり、安心して過ごしていただける居場所として少しずつ参加者も増えてきました。土に触れる農作業だけでなく、看板を作ったり、収穫した野菜を調理したり、自分にあった作業のときだけ参加ができたり、体調をみながら行けるときだけ参加するなど、希望にあわせて参加できることが特徴です。 普段あまり外出する機会がない不登校の子を持つ家族からは「不登校ということにフォーカスされない地域の方々との交流はとてもありがたかった」という声が聞かれました。また、社会との関りが希薄な30代男性からは、「家に1人でいると色々なことを考えて不安になってしまうけど、畑作業の間は時間を忘れて没頭している感じで楽しかった」との声を聞くことができ、様々な機能や効果を実感できうれしく思っております。 今後も、生きづらさを抱えた方々に、はちまるサポートのCSWが根気よく伴走し、一人一人の状況にあわせた支援をしていきたいと思います。自然の中で様々な“つながり”が生まれ、誰もが支えあい共に生きる社会の実現につながっていくことを期待します。 令和6年能登半島地震における東京DPATの活動 東京都立精神保健福祉センター所長(前福祉局障害者医療担当部長・東京DPAT統括者)    石黒 雅浩 T.東京DPATについて 都では、大きな災害時に、被災住民や被災地の精神障害を持つ方への専門的な支援を行う災害派遣精神医療チームとして、東京DPAT(Disaster Psychiatric Assistance Teamの略)を、必要時被災現場に派遣できる体制を整備しています。 こういった体制整備の過程には以下のよう経緯があります。 阪神・淡路大震災以降、被災者の心理的支援の必要性が認識され、「こころのケア」と呼ばれるようになりました。 都は新潟中越地震や東日本大震災のとき、多くの「こころのケアチーム」を派遣し、支援を行ってきました。 平成28年に発生した熊本地震では、本震4日後から都立病院等6機関8班28名を派遣し、避難所巡回・家庭訪問による精神保健福祉相談及び啓発活動等を行いました。この熊本地震の支援活動の経験から、大規模災害時等の精神保健医療機能の低下や災害時ストレス等により生じる精神保健医療福祉ニーズに対して、発災直後から中長期も見据えた支援等を円滑かつ迅速に提供する体制の整備が課題とされました。 都は「東京都災害時こころのケア体制整備事業」を立ち上げ、連絡調整会議及び作業部会において、東京DPATの創設に向け指揮命令系統・派遣基準・活動内容等を議論し、平成30年3月に、都内の多くの精神科病院や精神保健福祉センター等専門職を中心とした職員の皆様の御協力のもと、「東京DPAT」を創設しました。また、実際の被災現場での支援に活用しやすい「東京都災害派遣精神医療チーム(東京DPAT)マニュアル」を作成しております。 さらに、災害時に的確で効果のある専門的な支援が提供できるように、普段から、東京DPAT隊員養成のための専門的研修や、さらにその後の技能維持のための研修(これらの研修は主に東京都立中部総合精神保健福祉センターが企画・実施しています)、そして、実際的な災害時を想定した訓練等を行ってきました。 現在、東京DPATの隊員については、精神科医、精神科病院等に勤務している看護師など総勢約300名の医療専門職等が隊員登録をしております。 U.令和6年能登半島地震における東京DPAT派遣について 本年1月1日に能登半島を中心に大きな被害が発生した地震災害について、石川県・国から、DPAT派遣要請が全国の都道府県のDPAT所管部署にあり、都として、都庁の福祉局精神保健医療課内に、国のDPAT事務局との連絡調整や東京DPAT隊員の派遣調整のための、東京DPAT統括者をトップとする「東京DPAT調整本部」を緊急に立ち上げ、各DPAT隊と派遣の調整を図り、石川県の能登中部・北部医療圏に、東京DPAT隊員を令和6年1月13日〜1月27日の間(この期間に2陣)派遣しました。 具体的な活動場所は、@能登中部医療圏DPAT活動拠点本部(七尾市の公立能登総合病院内)A能登北部医療圏の能登町DPAT指揮所(能登町役場内)B能登町内各避難所等でした。 2隊とも医療や福祉の専門職等で構成されたチームで、延べ派遣人数は、医師(精神科医)2名、看護師2名、保健師1名、心理職1名、福祉職2名でした。 実際に被災地に行った隊員は、まだ、電気・ガス・水道などの基本的なライフラインも復旧途上であったため、簡易トイレや寒冷地用寝袋等も準備する必要があったり、非常に気温が低く寒い日々がつづき、大雪の日などもあり、また、一部の避難所では、呼吸器感染症などの流行の兆しが見られるなど、心身共に過酷な状況下での支援活動になり、当初は困惑したところもあったようですが、それでも、平常時のこれまで行ってきた研修や訓練等の経験が活きた部分も多くあったようでした。 実際の被災現地での支援内容については、@被災者のメンタルヘルスに関するニーズの把握とそれをもとにしたメンタルケアA避難所における精神医療的対応、相談対応等B被災地の支援する側の支援者へのメンタルヘルスなどの支援C他の医療支援などの支援活動をしている部隊(DMAT、DHEAT、日赤医療班、他の県等から派遣されているDPAT等)等との情報共有や連絡調整などの支援を行いました。 支援活動を実際に行ってきた中で、今後、実際に災害が起きたときに考えておかなければならない新たな課題も見つかった部分もあり、今回の東京DPAT隊派遣と支援を通じての経験を活かし、今後の研修や訓練を、更に、実際の災害時に効果的なものになるようにしていければとも思います。 災害はいつどこで起こるか分かりません。今後も平常時から災害に備えた体制整備の更なる充実・強化に努めていきたいと考えております。 東京都の令和6年度「精神保健医療予算」の概要 ― 総額490億円 ― ● 障害者医療費助成 障害者の保健の向上及び福祉の増進を図るため、医療費の一部を助成する。 1 措置患者医療費公費負担 17億9千万円 2 自立支援医療(精神通院医療)の支給 422億5千万円 3 小児精神障害者入院医療費助成 6千万円 4 支払事務委託等 12億7千万円 ● 精神科救急医療 精神障害者に対し、救急医療体制の確保を行う。 1 精神科救急医療体制 8億9千万円 2 精神科二次救急医療体制    4億円 3 精神科初期救急医療体制   8千万円 4 精神科救急医療情報センター 6千万円 ● 精神障害者の退院促進 入院患者及び精神科病院等に対して退院促進に向けた働きかけ、地域定着体制整備の調整を行う。 2億7千万円 ● 障害者関係各センターの運営等 1 発達障害者支援センター 6千万円 2 総合精神保健福祉センター等 4億3千万円 ● 相談支援体制等の充実 障害者の自立と社会参加を促進するため、相談体制・地域生活支援等の充実を図る。 1 発達障害児の検査に関する実態調査 3千万円 2 区市町村発達検査体制充実緊急支援事業 2億1千万円 3 発達障害者支援 1千2百万円 4 発達障害児等巡回支援員整備事業 6千1百万円 5 高次脳機能障害支援 1億3千2百万円 6 ペアレントメンター養成・派遣事業 1千2百万円 7 発達障害専門医療機関ネットワーク構築事業 1千4百万円 8 保健所精神保健福祉事業等 3億3千万円 9 夜間こころの電話相談 2千7百万円 10 都営交通乗車証発行事業 3千1百万円 11 地域医療体制整備 5千1百万円 12 精神科病院における虐待防止の推進 4千3百万円 13 心のサポーター養成事業 9百万円 14 入院者訪問支援事業 2千6百万円 15 精神科入院業務手続きのDX化 4千万円 16 身体合併症(慢性維持透析)に係る医療提供体制の確保事業 4千2百万円 17 災害時こころのケア体制整備事業 1千4百万円 18 災害時精神科医療体制整備事業 6百万円 19 災害拠点精神科病院等自家発電設備等整備強化事業 3億6百万円 20 難治性精神疾患地域支援体制整備事業 1千2百万円 21 措置入院者退院後支援体制整備事業 1千1百万円 22 精神障害計画相談支援従事者等養成研修事業 2百万円 23 依存症対策の推進 2千5百万円 24 てんかん地域診療連携体制整備事業 5百万円 25 摂食障害治療支援体制整備事業  1千2百万円 東京都 こころの健康だより No.140 令和6年6月発行 発行 ◆東京都立中部総合精神保健福祉センター広報研修担当  〒156-0057 世田谷区上北沢二丁目1番7号 電話 03-3302-7704 FAX 03-3302-7839 ◆東京都立精神保健福祉センター調査担当  〒110-0004 台東区下谷一丁目1番3号 電話 03-3844-2210 FAX 03-3844-2213 ◆東京都立多摩総合精神保健福祉センター広報計画担当  〒206-0036 多摩市中沢二丁目1番地3 電話 042-376-6580 FAX 042-376-6885 登録番号(5)14 (次号は令和6年10月発行予定です)