こころの健康だより No.146  2026年9月発行 特集「ネット依存・ゲーム行動症」 ● ネット依存・ゲーム行動症に関する動向… ………………………………2 ● 「スマートフォン依存」の精神科支援… ……………………………………4 ● ネット・ゲーム依存における予防と回復支援… …………………………6 ● 青少年を取り巻くインターネット環境と東京都の取組みについて……8 ネット依存・ゲーム行動症に関する動向 東京都立中部総合精神保健福祉センター  所長 平賀正司 令和7年版 情報通信白書によると1)、令和6年のインターネットの個人による利用率は85.6%となっていて、このうち「スマートフォン」で利用率が74.4%でした。そして、こうした利用者が、どのような目的で、また何にインターネットを利用しているのか、その目的や用途を調べると、「SNS(無料通話機能を含む)の利用」の割合が8割を超えて最も高く、次いで「検索サービスの利用」「電子メールの送受信」となっていました。こうした利用目的は年代によって異なってり、6~ 12歳では「動画投稿・共有サイトの利用」の割合が最も高く、6~ 12歳(3位)13 ~19歳(4位)では、オンラインゲームでの利用も割合が高くなっていました。またゲームに関しては、1980年ごろから、家庭用のゲームの普及が始まりましたが、経済産業省の2023年の調査によると2)、2023年までの10年に我が国のゲーム市場は2倍に成長し、特にオンラインプラットフォームのゲーム、とりわけスマートフォン向けのゲームが、こうした成長の最も大きなけん引役となっ たといわれています。こうしたことは、おそらく誰もが日々の生活でも実感していると思われ、この様に、スマートフォンの普及によって、インターネットゲームが我々の日常生活において占める割合がますます大きなものになってきていることに気付きます。 インターネットの利用が増える中、インターネットやゲームの利用が長時間になり、自分でやめること、時間等をコントロールすることが出来なくなってしまう人が見られるようになりました。そして、そのことで、仕事や学業に影響が出たり、体調不良をきたしたり、また他のことよりもインターネットやゲームが優先されることなどで、家族や周囲との関係に問題が生じるなど、健康面、社会生活に影響が出てくることがあると指摘されています。こうした状況は「インターネット依存」や「ゲーム依存」と呼ばれています。「インターネット依存」という言葉は、アメリカのGoldbergという精神科医師が1995年に最初に使い、同じア メリカの心理学者のYoungが「ネット中毒の8項目基準」を発表するなど、「ネット依存」を一種の精神疾患とみなしたといわれています。またオンラインゲームの急速な普及により、ゲームに関連した問題が若年層を中心に深刻化していることも指摘されるようになってきました3)4)。令和4年1月に世界保健機関(WHO)が作成した「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」の改訂版(ICD-11)が発効されました。これは30年ぶりに改訂されたもので、日本でも令和9年1月よ り、この統計分類が活用されることが見込まれると厚生労働省が発表しています。この改定においては、これまでのICD-10で「精神及び行動の障害」に分類されていた精神疾患が「精神,行動,神経発達の疾患」に位置付けられることをはじめとして、いくつかの大きな改定が見られます。そこでは、「ゲーム症」が、「依存症と関連する精神および行動の障害」の中に正式に疾病として分類されました。一方、「インターネット依存」は、アメリカ精神医学会の診断マニュアル(DSM-5-TR)においては「インターネット・ゲーム障害」が、疾患区分としてではなく今後検討すべき重要事項に記載されるにとどまり、インターネットのみの 使用症は、疾病単位を構成するエビデンスが少ないことから正式な病名としては採用されていません。このように、「インターネット依存」を正式に疾患とし位置付けるには、未だに十分な研究が行われているともいえないこと、ICD-11の採用についても議論が続いていることなどもいわれています5)。またゲーム依存等に対しては、単に「依存」の状況に対応するのではなく、こうした背景にある発達障害や他の精神疾患、家族や社会との関係を視野に入れた包括的な評価の元に対応することが求められるといわれます6)。とくに発達障害の併存については指摘されていますが7)8)、実際、中部総合精神保健福祉センターに「ゲームや ネット依存を心配して」相談に来られる方の中にも、発達障害の併存が見られることも少なくなく、更には家族との関係や学校を始めとした対人関係の問題などが、大きな問題と考えられることもあります。 我が国では、令和2年2月「ゲーム依存症対策関係者連絡会議」9)が開催され、ネット依存やゲーム症に対する実態調査10)が行われました。この調査によると、ネット依存・ゲーム障害の治療施設が少なくとも89存在し、いずれの施設でも受療している患者数は増加していて、ネット依存患者の約7割がゲーム障害患者であったことなどが紹介されています。また、この調査では十分に把握できなかったこともあり、さらなる実態解明が必要とされました。令和7年1月から、厚生労働 省から委託を受けた久里浜医療センターがゲーム依存(ゲーム行動症)・ネット依存の全国調査として「ネット・ゲーム使用と生活習慣に関する実態調査」を実施されました。まだ結果の公表はありませんが、この調査の結果をもとに今後のゲーム依存(ゲーム行動症)やネット依存に関連した施策を検討すると されており、今後こうした結果等も踏まえて、様々な取組が行われていくものと思います。 上記にも上げたように、ゲーム依存やネット依存の治療を行っている医療機関もあります。更に、東京都には3つの精神保健福祉センターがあり、それぞれが、東京都の依存症の拠点として位置付けられており、依存症の方やそのご家族からのご相談への対応、回復を目指すプログラム、地域関係機関間の連携を図る取り組み、都民の方への普及啓発などの事業を行っています。ただし、ネッ トやゲームを対象にした回復プログラム等はなく、前述のように、ネットやゲームの相談は、思春期の方のご本人やご家族の相談を受ける思春期の事業の中で対応することの方が多く、センターへの相談を契機に関係機関と連携しながら支援を広げている、主に相談窓口としての機能を担っています。 ここでは、インターネット依存、ゲーム依存について、主に文献などを参考にまとめてみました。 この後は医療機関、相談機関、そして行政からの取り組みについて、具体的な、ご報告をいただいております。本号が、少しでも皆様のご理解の参考になればと願っております。 ※参考文献 1)令和7 年版 情報通信白書 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nb000000.html 2)経産省ホームページ https://www.meti.go.jp/statistics//toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20231006hitokoto.html 3)ネット依存の現状と課題―SNS 依存を中心として橋元 良明東京大学大学院情報学環ストレス科学研究 2018,33,10-14 https://www.jstage.jst.go.jp/article/stresskagakukenkyu/33/0/33_2018005/_pdf/-char/ja 4)「インターネット依存」研究の展開とその問題点東洋英和女学院大学『人文・社会科学論集』小寺 敦之 第31 号(2013 年度) 5)ゲーム行動症あるいはその周辺領域の子供たちへの支援・治療 吉川徹 精神医学67 巻4号(2025) 6)ゲーム行動症(ゲーム障害)・ネット使用症(ネット障害)ICDとDSM における位置づけの違いとCOVID-19 の影響 宮田久嗣 精神医学66 巻7 号(2025) 7)ゲーム依存相談対応マニュアル https://kurihama.hosp.go.jp/research/pdf/tool_book_ gaming.pdf 8)令和6年度厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)総括研究報告書ゲームに関連した生活障害等の問題、併存する疾患及びその対応等の実態把握に資する研究(24GC1014)研究代表者治徳大介 9)ゲーム依存症対策関係者会議lhttps://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-syougai_141301_00001.htm 10)ゲーム依存(ゲーム行動症)・ネット依存の全国調査について h t t p s : / / w w w . m h l w . g o . j p / s t f / s e i s a k u n i t s u i t e /bunya/0000149274_00002.html 「スマートフォン依存」の精神科支援 地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立松沢病院精神科 思春期・青年期病棟長 稲熊 徳也 スマートフォン(以下、スマホ)は、いまや子どもたちの生活に欠かせない道具です。友人との連絡、学習、動画、SNSなど、日常の多くがスマホ一台で完結するようになりました。一方で、「夜遅くまで使い続けて朝起きられない」「ゲームや動画がやめられない」「取り上げようとすると激しく怒る」「高額課金をしてしまう」といった相談も増えています。 スマホの使いすぎは、単に「意志が弱い」「しつけが足りない」という問題ではありません。楽しいから使うだけでなく、不安、孤独感、自信のなさ、学校や友人関係のつらさを一時的に紛らわせるために、スマホに頼っている場合があります。つまり、目に見える「使いすぎ」は、こころの不調や生活の行き詰まりを示すサインであることも 少なくありません。 「スマホ依存」では、スマホのことが頭から離れない、使う時間を減らそうとしてもできない、睡眠・学業・家族との時間よりスマホを優先してしまう、問題が起きているとわかっていても続けてしまう、といった行動がみられます。使えないとイライラしたり、落ち着かなくなったりすることもあります。 「スマホ依存」の中でも大きな割合を占める、「ゲーム依存」については、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類(ICD -11)で「ゲーム行動症」として正式に病名化されており、ゲームをコントロールできない、他の活動より優先する、問題が生じても続けることが主な特徴です。 一方、「スマホ依存」は正式な診断名とするかは議論が続いていますが、生活に支障が出るほど使い続けてしまう状態として、実際の生活では重要なテーマになっています。 なぜ「やめられない」のか 依存とは、問題が起きているとわかっていても、その行動をやめられない状態です。背景には、楽しい体験を学習し、もう一度それを選ばせようとする脳の報酬系の働きがあります。スマホゲームの達成感、SNSの「いいね」、動画の自動再生といった刺激は、「もう少しだけ」と使い続ける ように駆り立てます。 とくに思春期は、刺激に反応する力が強い一方で、衝動を止めたり先のことを考えたりする力は発達の途中にあります。そこに、通知、無限スクロール、ガチャなど、使い続けやすいアプリの設計が重なると、本人の意志だけでコントロールすることは難しくなります。だからこそ、叱責や根性論ではなく、環境を整え、気持ちを支え、少しずつ「自分で調整できた」という経験を積むことが重要です。 精神科支援を考える目安 精神科支援を考える目安は、スマホの問題が生活全体に広がってきたときです。たとえば、昼夜逆転が続く、遅刻や欠席が増える、家族との衝突が激しくなる、落ち込みや不安が強い、といった場合には、家庭だけで抱え込まず相談することが大切です。 外来で大切にしている多面的な評価 私が行っている精神科支援の目的は、スマホを完全に禁止することではありません。目指すのは、本人が自分の生活と気持ちを立て直し、スマホと「上手につきあう力」を取り戻すことです。そのため外来では、使用時間だけでなく、「どのような場面で、どのアプリを、どのような気持ちで使っ ているのか」を丁寧に整理します。 たとえば、ゲームに没頭する背景に、現実での挫折感や自信の低下がある場合があります。動画を見続ける背景には、不安や緊張から一時的に離れたい気持ちがあるかもしれません。SNSから離れられない背景には、孤独感や「つながっていないと不安」という気持ちが隠れていることもあります。こうした背景を理解することが、治療の出発点になります。 外来では、うつ・不安・不眠症状、ADHDや自閉スペクトラム症などの発達特性、学校や家庭の環境を多面的に評価します。心理検査も行い、本人の得意・不得意やストレス対処の特徴を整理します。うつ病、双極性障害、統合失調症などの併存が疑われる場合には、その治療を優先します。 必要に応じて薬物療法を検討することもあります。 入院診療で生活とこころを立て直す 東京都立松沢病院の思春期・青年期病棟では、中学生以上の10代を対象に、「スマホ依存」に対する約一か月間の入院プログラムを行っています。入院は本人の同意を前提とした任意のものであり、「今の状態を少しでも変えたい」という本人の思いを大切にします。 入院前期では、まず学校や家庭のストレスから一度距離を取り、安心できる環境の中で生活リズムを整えます。起床、食事、活動、就寝のリズムが一定になることで、昼夜逆転や睡眠不足が改善しやすくなります。スマホの使用についても、一方的に禁止するのではなく、本人・家族と相談しながら枠組みを決め、「決めた範囲で使う」練習を重ねます。 入院中期では、ワークブックなどを用いた心理教育を行います。「なぜやめられないのか」「どのような場面が引き金になるのか」「使い続けることで生活にどんな影響が出ていたのか」を振り返り、自分の行動を客観的に理解していきます。あわせて、リラクゼーション、アンガーコントロールなど、スマホ以外で気持ちを整える方法を学びます。作業療法では、運動や創作活動を通して、スマホ以外の楽しみや達成感を見つける機会をつくります。 入院後期では、退院後の生活に向けた準備を行います。外泊練習を通して、家庭でスマホを使いすぎずに過ごせるかを確認し、日課を具体的に組み立てます。大切なのは、単にスマホ時間を減らすことではなく、その時間を何で置き換えるかです。本人の趣味、得意なこと、楽しめる活動を生活の中に組み込むことで、スマホだけに頼らない生活を目指します。 退院後も「立て直す力」を支える 退院後も支援は続きます。「スマホ依存」は、よくなったり悪くなったりしながら回復していくことが多く、再び使いすぎてしまうこともあります。それを「失敗」と責めるのではなく、「何がきっかけだったのか」「次はどう立て直すか」を一緒に考えることが大切です。外来、学校、地域の相談機関とつながりを保つことも、再燃予防の大きな支えになります。 家庭では、スマホをめぐって衝突が起きたときほど、使用時間だけを見るのではなく、その背景にある気持ちに目を向けることが役立ちます。「何かつらいことがあったのかな」「使っていると少し楽になるのかな」と、責める前に一度立ち止まることで、親子の対話が保たれやすくなります。 家庭でルールを決める場合は、「何時まで」「どこで使うか」「課金はどうするか」をできるだけ具体的にし、本人が守れそうな範囲から始めます。守れなかったときは罰するよりも、「どの場面が難しかったのか」「次は何を変えるとよいか」を振り返ります。この試行錯誤そのものが、スマホとのつきあい方を学ぶ機会になります。 「スマホ依存」の支援で大切なのは、スマホを悪者にすることではありません。その子がスマホに頼らざるを得なかった背景を理解し、こころや家庭・学校環境を少しずつ整えていくことです。精神科支援では、背景を多面的に評価して、親子とともに解決策を模索していきます。 図 精神科支援の流れ 相談・外来受診 ▼ 多面的評価 使用状況/こころの不調/発達特性/学校・家庭環境 ▼ 治療方針の共有 本人・家族と目標を確認 ▼ 外来治療または入院治療 生活リズムの改善、心理教育、作業療法、家族支援 ▼ 退院後・外来フォロー 再燃予防、学校・地域資源との連携 ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i所長 一般社団法人日本デジタルウェルビーイング協会代表理事 森山 沙耶 1. インターネット使用を取り巻く現状 子どもたちにとって、インターネットやゲームは、もはや特別なものではありません。学習や対人コミュニケーション、余暇、情報収集など、日常生活の大部分がデジタル環境と接続している状況です。こども家庭庁による令和7年度の調査結果では、青少年の99.0%がインターネットを使用しており、使用機器はスマートフォン、GIGA端末※、ゲーム機など多岐にわたっています(こども家庭庁,2026)。小学生の段階からインターネットやスマートフォンの使用が一般化している現在、ネットやゲームとの付き合い方は、家庭だけでなく、学校や地域も含めて考えるべき課題となっています。 「ネット依存」「ゲーム依存」という言葉はいまや広く知られていますが、単に「長時間使っていること」と認識されている場合もあり、正確な理解が十分に浸透しているとはいえません。世界保健機関(WHO)が作成するICD -11では、ゲーム行動症は、ゲームをコントロールできないこと、他の生活活動よりゲームが優先されること、問題が生じても使用が続くことなどを特徴とする状態として説明されています(WHO,2022)。実際の支援現場でも重要なのは、使用時間だけで判断することではなく、睡眠や生活リズム、登校・学業の状況、家族関係、心身の健康、金銭面などにどのような影響が生じているかを丁寧に見立てていくことです。 2. ネット・ゲーム依存の回復支援の実際 筆者が運営する「ネット・ゲーム依存予防回復支援MIRA-i(ミライ)」は、2019年に事業を開ネット・ゲーム依存における予防と回復支援始しました。当初は、ネット・ゲーム依存に悩む本人や家族への個別カウンセリングを中心とした回復支援サービスを主に提供していました。相談内容は幅広く、早期の心配の段階から、昼夜逆転、不登校、ひきこもり、家族関係の悪化、家庭内暴力、高額課金といった深刻な問題を抱えるケースまでさまざまです。すでに医療機関につながっている場合もあれば、本人が医療機関の受診を拒否している一方で、カウンセリングであれば参加できるという場合もあり、ケースに応じた柔軟な対応が求められます。 また、相談は本人から始まるとは限りません。特に小学校高学年から中学生では、保護者が先に相談に訪れる家族相談が多くを占めています。保護者が強い不安を抱えている一方で、子ども本人は問題意識を持っていないことも少なくありません。その場合、まず保護者への心理教育を行い、ネットやゲームの特徴や依存のメカニズム、子どもの発達段階に応じた関わり方を共有します。それにより、保護者の認識や態度の変容、家庭での具体的な実践につなげていきます。 家庭内で一方的な制限や叱責が繰り返されると、かえって親子関係が悪化し、子どもがますますゲームやネットに逃避することもあります。そのため、使用を減らすことだけを目標にするのではなく、家族の対話を回復し、生活リズムや家庭内ルールを少しずつ整えることを重視しています。 一方、高校生や大学生では、留年、退学、進路の停滞などをきっかけとして、本人が「このままではいけない」と感じて相談につながることがあります。この場合は、本人の目標や困り感を確認しながら、生活リズム、学業・就労、対人関係、ストレス対処、余暇活動の再構築などを包括的に扱っていきます。また、ネット・ゲームの問題の背景には、うつや不安などのメンタルヘルスの問題、発達特性、不登校、家族関係の葛藤などが複合的に関わっていることも多く見受けられます。そのため、必要に応じて医療機関や学校と連携し、本人と家族を孤立させない継続的な支援体制をつくることも重要です。 3. 予防的アプローチの実践と今後の展望 MIRA-iの活動は、コロナ禍を契機に「回復支援」だけでなく「予防支援」へと広がっていきました。外出制限やオンライン授業の増加、GIGAスクール構想による端末利用の拡大により、子どもたちのデジタル環境は大きく変化し、依存やトラブルのリスクも高まりました。 学校現場では、授業で端末を使う一方で、家庭では動画視聴やゲーム、SNSの使用が増え、保護者からは「学校でも指導してほしい」という声が寄せられています。一方、学校側からは「家庭でルールを作ってほしい」という声も聞かれます。つまり、家庭と学校のどちらか一方だけでは対応が難しい状況があります。 そこで予防支援では、子ども、保護者、教員それぞれに向けた包括的な教育が必要だと考えます。子どもには、ネットやゲームのリスクのみを伝えて怖がらせるのではなく、過剰な使用が睡眠や学習、友人関係、気分にどのように関係するのかを理解してもらい、自分の使い方を振り返る機会をもつことが大切です。保護者には、禁止や取り上げだけに頼らない関わり方、子どもと協働的に話し合ってルールを作る方法、フィルタリングやペアレンタルコントロールなどの技術面の活用などを伝えています。教員には、問題が深刻化する前のサイン、家庭との連携、専門機関につなぐ視点が求められます。 MIRA-iで行う予防活動の中心は、一次予防といえます。一次予防とは、問題が起こる前に、正しい知識や対処スキルを身につけ、リスクを減らす取り組みです。ただし、学校での講演や出前授業の中では、すでに困りごとを抱えている子どもや保護者が相談につながることもあり、早期発見・早期支援という二次予防の役割を担うこともあります。 今後の課題としては、単発の講座だけでは十分ではないという点が挙げられます。講演によって知識や情報を伝えることはできても、家庭でのコミュニケーション、子どもの自己調整スキル、ストレスへの対処、代替活動の作り方などは、一度聞いただけですぐに身につくものではありません。ネット・ゲーム依存の予防と回復には、知識提供にとどまらず、継続的な相談、家庭への支援、医療・学校との連携、地域における支援ネットワークづくりが重要であると感じています。そのため、私たちは自治体や学校、企業などと協働しながら、子どもや家族が早い段階で相談につながれる体制づくりや、新たな予防アプローチの開発・実装に 取り組んでいきたいと考えています。 ネットやゲームは、子どもから切り離すべき「悪いもの」ではありません。大切なのは、子どもがデジタル環境の中で、自分の生活を自律的にコントロールし、困ったときに助けを求められる力を育てることではないでしょうか。そのためには、本人を責めるのではなく、家族、学校、医療・福祉、地域が連携し、予防から回復まで切れ目なく支える仕組みづくりが求められます。 ※GIGA端末:文部科学省の「GIGAスクール構想」に基づき、児童・生徒一人に1台配備された学習用端末(パソコンやタブレット端末)のこと こども家庭庁(2026)令和7年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」報告書 World Health Organization (2022). ICD-11 for mortality and morbidity statistics: 6C51 Gaming disorder. World Health Organization. 青少年を取り巻くインターネット環境と東京都の取組みについて 都民安全総合対策本部 総合推進部 都民安全課 ネット安全利用推進担当課長 遠藤 晋之介 1 青少年のネット利用環境の変化 近年、青少年のインターネット利用環境は大きく変化しており、スマートフォンの普及に伴い、ネットトラブルのリスクも一層高まっています。昨年度、東京都が実施した調査によると、小学校低学年(1 ~3年生)のスマートフォン所有率は31.8%と、約3人に1人が端末を所有しています。また、この年代でも約4人に1人がSNS等で知らない人とやり取りをした経験があり、その内容として「顔や身体の写真・動画の送受信」を行ったケースが3割を超えるなど、深刻なリスクが顕在化しています。 さらに、生成AIの普及により、青少年の顔写真が不適切に加工されるなど、新たなトラブルも生じています。生成AIの利用率は、小学校低学年で55.8%、高校生で52.2%と高い水準にあり、保護者にも利用が広がっています。一方、偽・誤情報への対応については、保護者の約9割が重要性を認識しているものの、約5人に1人は具体的な対策を行っていない状況です。 2 ネットリテラシー向上に向けた東京都の取組み こうした状況を踏まえ、東京都では、青少年とその保護者に対するネットリテラシー啓発の重要性が一層高まっていると認識しています。スマートフォン利用の低年齢化やAI技術の進展、偽・誤情報の拡散といった課題に対応するため、令和7年度から「ネッつグ(ネットとつながるGoodなミライ)Tokyo」として総合的な取組みを展開しています。 本事業では、「学んでGood」「話してGood」「見守ってGood」といった視点のもと、保護者と子供が共に学び、家庭でルールを作り、適切に見守ることを重視しています。今年度は、新たにネットリテラシーを学べるポータルサイトの構築に加え、体験型イベントの実施や子育て情報誌の活用などを通じ、より幅広い層への普及啓発を進めていきます。 3 ネットの安全利用等について学べる出前型出張講座 ファミリeルール 具体的な取組みの一つとして、「ファミリeルール講座」を実施しています。本講座では、インターネット環境の変化の中で、子供が被害に遭わないための知識や、自ら身を守る力を育むための講義やグループワークを行っています。 また、今年度は未就学児とその保護者を対象とした講座の実施も予定しており、スマートフォン利用の低年齢化に対応した取組みを強化しています。 4 こどものネット・スマホのトラブル相談「こたエール」 東京都では、ネットトラブルに関する相談窓口として「こたエール」を設置しています。本窓口は、インターネットやスマートフォンに関する様々なトラブルについて、無料かつ気軽に相談できる仕組みです。 相談内容は多岐にわたりますが、令和7年度の傾向としては、青少年に関する相談の中ではスマートフォン依存、性的トラブル、個人情報に関する問題が多く寄せられており、日常的な利用の中でトラブルが発生している実態が見られます。 5 おわりに インターネットは青少年にとって有益な学びや交流の機会を提供する一方で、利用の仕方によっては重大なリスクにもつながります。こうした中で、子供自身が正しい知識を身に付けるとともに、保護者が主体的に関わり、家庭でのルールづくりや見守りを行うことが重要です。 東京都においては、今後も関係機関と連携しながら、「ネッつグTokyo」を中心とした取組みを推進し、青少年が安全・安心にインターネットを利用できる環境の整備を進めていきます。 東京都 こころの健康だより No.146 令和8年9月発行 登録番号(8)1 編集・発行 東京都立中部総合精神保健福祉センター 03 - 3302 - 7704 印刷会社 株式会社能登浦