こころの健康だより .141 2024年10月号 特集 「孤独・孤立とメンタルヘルス」 もくじ ● 孤独・孤立の理解について2 ● 「孤独・孤立」とメンタルヘルス4 ● 若者の望まない孤独を予防する取り組み  〜若者たちのこころの居場所・つながり〜6 ● 中野区における孤独・孤立対策の取組について8 この「こころの健康だより」は中部総合精神保健福祉センターのホームページでもご覧になれます。 2ページ〜3ページ 孤独・孤立の理解について 早稲田大学文学学術院   教授 石田 光規 1.はじめに 近年、孤独・孤立という言葉をしばしば耳にするようになりました。2021年2月には内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置され(現在は内閣府、孤独・孤立対策推進室)、2023年5月には孤独・孤立対策推進法が成立しました。この法律は2024年の4月に施行されています。 とはいえ、「孤独・孤立の何が問題なのか」という言葉を耳にすることも少なくありません。本稿では孤独・孤立の問題性について説明し、今後の社会の方向性について考えてみましょう。 2.孤独・孤立の何が問題なのか 1)孤独・孤立とは 孤独・孤立の問題性について説明する前に、まず孤独・孤立とは何なのか簡単にお話ししましょう。 孤独・孤立については、「孤独・孤立」と併記されることが多いですが、厳密には異なった概念です。前者が主観的状況、後者が客観的状況という理解が一般的です。もう少し詳しく言うと、人間関係に関する否定的な解釈から生じる不安感やさみしさなどが孤独、客観的につながりから断たれた状況が孤立と言うわけです。 たとえば、なんとなくさみしいと感じる、誰も自分のことを理解してくれないのではと感じる、といった心理状況が孤独です。そのため、孤独は「孤独感」とも言われます。一方、一週間誰とも話していない、誰も支え手がいないなど、客観的に人とのつながりが断たれた状況が孤立です。 そのため、孤立はしているが孤独ではない、あるいは、孤独感は高いが孤立していない、といった状況も理論的にはあり得ます。とはいえ、孤立した人はおおむね孤独感が高い状況にあります。 2)問題としての孤独・孤立 以上を踏まえたうえで、次に、なぜ孤独・孤立が問題視されるのか考えてみましょう。 孤独・孤立の研究をしたり、孤独・孤立に関する政策の現場に立ち会ったりすると、「孤独・孤立の何が悪いのか」「人とつき合おうがつき合うまいが個人の自由だ」という批判を耳にする機会も少なくありません。個々人の自由を尊重する私たちの社会では、たしかに誰とどうつき合うかも自由ですし、つながりに入らないことも一つの選択と見なされます。 とはいえ、先ほどのように孤独・孤立を定義すると、孤独・孤立が私たちにプラスの影響を及ぼすと判断しうる研究は、ほとんどありません。孤独感の高さは、心身の健康に深刻な悪影響を及ぼしますし、孤立している人の生活への満足感は総じて低くなります。また、孤独感の高い人や孤立している人は、経済的に厳しい状況にある、仕事をしていない、結婚していないなど、社会的に「恵まれない」と見なされがちな境遇にあります。このような事情を無視して、「孤独・孤立も自由な選択の結果だ」と結論づけてしまうと、結果として厳しい状況にある人を見過ごすことにつながります。だからこそ、孤独・孤立については、それが社会問題であることを認識し、しっかりと対応してゆく必要があるのです。 3.問題の本格化は実はこれから 孤独・孤立の問題を扱う際に知っておきたい事実をもう一つ指摘しましょう。それは、孤独・孤立問題が本格化するのは実はこれからということです。 1990年代の終わりから2000年代にかけて孤独・孤立の問題が指摘されるようになり、2020年代にようやく政策課題として認識されるようになりました。とはいえここまでは問題の序章に過ぎません。孤独・孤立が真に社会問題として私たちの生活に広がるのは実はこれからなのです。 1)いよいよ処理しきれなくなる孤立死 2025年に入ると団塊の世代のすべてが75歳以上になります。これまで単身世帯は右肩上がりで増えてきましたが、今後、単身高齢者はますます増えてゆくでしょう。それに付随して孤立死の数も増えてゆくと予想されます。 誰にも看取られないまま亡くなる孤立死は、定義は曖昧であるものの、統計を取っている自治体では2000年代から着実に増えてきました。単身高齢者が増える社会では、今後ますます孤立死が増える可能性は高いでしょう。そうなると、いずれ孤立して引き取り手のない遺体をどのように扱うか検討する時代が到来します。 私は内閣官房の『「孤独死・孤立死」の実態把握に関するワーキンググループ』で座長を務めてまいりました。その際のヒアリングで2025年あたりから、孤立死に対応する医療者・介護者の数が不足してくるという話を耳にしました。増えゆく孤立死に対応するために、別途予算を組む、対策を立てるといった時代に入りつつあるのです。 2)若年層から中高年にかけての苦境 若い世代についても事態は深刻になりつつあります。2020年の国勢調査から算出した50歳時未婚率(50歳まで一度も結婚したことない人の比率)は、男性28.3%、女性17.8%でした。つまり、男性の4人に1人以上、女性の6人に1人以上は50歳になるまで一度も結婚をしていないことになります。この数値はかなり深刻です。 日本社会はこれまで、家族のサポートをあてにして、社会のさまざまなシステムをつくってきました。社会調査を見てもその傾向は明確で、サポート源としての家族の役割は他を圧倒しています。日本社会では事実婚はほとんどないので、結婚をしないということは、子どもがいないことを意味します。当然ながら配偶者のサポートを受けることもできません。 より若い時代には、親も相応に若いので親のサポートをあてにできたかもしれません。しかし、50歳になれば親もだいたい70歳から80歳になっているでしょう。50歳時未婚率の増加は、頼るあてもなく、親のケアの役割だけ背負った人が今後どんどん増えてゆくという事実を表しているのです。しかも、2020年に50歳を迎えた人は、ちょうど団塊ジュニアにあたり、人口的にも相当の人数がいます。 これからの日本社会には、頼ることのできる家族をもたず、ケアを必要とする親を抱える人が大量に発生します。こうした人が孤独・孤立の問題に悩まされるのは想像に難くないでしょう。日本社会の孤独・孤立問題が本格化するのはこれからなのです。 4.発想の転換が必要だ 資本主義社会を生きる私たちの生活はどんどん便利になってゆきます。あまりに便利ゆえ、私たちは人づきあいは不要なのではと錯覚するほどです。実際に調査をしてみると、多くの人はそれほど人づきあいを望んでいないという結果も出ています。 一方で、孤独・孤立は確実に私たちの心身、私たちの生活する社会をむしばんでいきます。この事態を打破するために、私たちはもう一度、人づきあいの重要性を考え直す必要があります。そのような時期にさしかかりつつあることを、自覚する必要があるでしょう。 4ページ〜5ページ 「孤独・孤立」とメンタルヘルス 東京都立中部総合精神保健福祉センター   所長 平賀 正司 はじめに この原稿を書くにあたって、まず初めに「孤独・孤立」に関して「メンタルヘルス」の視点から、どうまとめればよいのかを悩みました。「孤独・孤立」は、メンタルヘルスの問題全てに関係するようでもあり、どこにどう関わるかを述べるのは、とても難しいことでした。私は「孤立」という言葉を聞くと必ず、十数年以上前に藤田大輔医師(特定非営利活動法人岡山ACTセンター)が講演で話していた言葉を思い出します。それは藤田医師が、イギリスに行った時のことで、訪問支援チームのスタッフに「最もシビアな人は?」と聞いたとき、「孤立している人」という答えがあったというものです。その後、この言葉は、私が支援にあたる際に、繰り返し思い出されました。一方「孤独」という言葉を聞くと、谷川俊太郎氏の「二十億光年の孤独」の一節が、自分でもうまく表現できない感情とともに思い出されてきます。そんなことを考えていたら、益々、どうまとめるか悩んでしまいました。そこで、改めてこの機会に「孤独・孤立」とメンタルヘルスとの関連について調べて整理し、ここで皆様と共有することとしました。 「孤独・孤立」のメンタルヘルスへの影響 わが国では、令和5年5月31日に「孤独・孤立対策推進法」が成立しました。この法律の背景には、新型コロナウイルス感染拡大の影響等による深刻化への懸念がありました。国の資料※1には「日常生活若しくは社会生活において孤独を覚える」「社会から孤立している」ことによって心身に有害な影響を受けている状態にある人への支援等に取り組むことが示されています。一般的に、客観的な状態を示す「孤立」と個人的な感情を意味する「孤独」とは違うとされます(法では孤独と孤立を分けていません)。太刀川ら※2は、「社会的に孤立している客観的な状態は孤独感や抑うつ症状とほとんど関連がない一方で、社会的に孤立していると主観的に感じることや孤独感が、抑うつ症状と関連する」と報告していて、このことは「孤独・孤立」とメンタルヘルスとの関連を考えるにあたって大変参考になります。「孤独・孤立」は、あらゆる世代で課題となりますが、高齢者層においては、コロナ以前から、単身高齢世帯の増加等による「孤独・孤立」の深刻化が懸念され、今後高齢化が進む中で取り組むべき課題とされています※3。一方、「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」※4によりますと、「孤独感」が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は20〜29歳で最も多く、こうした若年層の孤独感に対して、どう取り組むかも重要な課題となります。そこで、ここからは若年層に焦点を当てて「ひきこもり」「自殺」「依存症」について述べていきます。 「ひきこもり」と「孤独・孤立」 「ひきこもり」とは、厚生労働省の定義によると「様々な要因の結果として社会的参加を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」とされます。コロナによる外出制限などが、ひきこもっている人にとって、一時的にでも良い影響を及ぼすのではないかという考えもみられましたが、実際には、こうした変化はほとんど起きなかったとされます※5。また過去の調査からは、ひきこもっている人の7割が「孤独感」を感じ※6、「真に孤立した状態」※7にあるとも報告されています。ひきこもりの背景には、様々なメンタルヘルスの課題が考えられ、その支援に関しては一概には言えませんが、少しでも本人が安心して、「孤独感」などを話せる関係作りから始めることが求められるのではないかと思います。 「自殺」と「孤独・孤立」 我が国の自殺者数は平成10年に3万人を超えました。その後、各自治体が様々な自殺対策に取り組み自殺者数は減少してきましたが、未だ自殺者数は2万人を超え、減少していた自殺者数が、コロナ感染拡大のみられた令和2年に再び増加に転じるなど、依然深刻な事態が続いています。特に、近年注目されているのが若年者と女性の自殺者数の増加です。太刀川らは※8、全国大規模調査に基づいて、経済的苦境や社会的孤立よりも孤独感が自殺念慮に強い影響を与えていること、また急激な孤独感の悪化が女性に大きな影響を与えることを示し、自殺対策として孤独感を抱える人への心理的サポートが重要であることを述べています。コロナ後、必ずしも元に戻ったともいえない生活や環境の変化の中、新たな孤独感を感じる人々が増えることも懸念されます。今後、こうした人々への心理的サポートも課題となると思われます。 「依存症」と「孤独・孤立」 アディクション(嗜癖)の対義語はコネクション(つながり)と松本※9は述べています。この言葉からも、依存症と「孤独・孤立」の深い関係を感じます。様々な生きづらさを抱えた人の中には、辛さの緩和を人との関係ではなく、物質やある種の行動により回避する対応をとり、このことにより依存症という病に至ることがあるといわれています。依存症の対象には、アルコールや薬物、そしてギャンブルなど様々なものがありますが、その背景には、こうした生きづらさ、そして孤立があると考えられています。ここ数年、若年層の市販薬依存が話題になることも多いです。松本※10によると、市販薬依存患者は「家庭や教室のみならず反社会的集団にも居場所を見いだすことができない」、援助希求が一層乏しい深刻に孤立した状況にあって、その支援においては、薬物欲求のトリガーを探す協働等から始めるなど関係作りへの配慮が求められると述べています。 おわりに 以上、筆者の頭を巡っていた「孤独」「孤立」「メンタルヘルス」について、主に若年層の「ひきこもり」「自殺」「依存症」を中心に、多くの専門家の知見を紹介した形で整理させていただきました。これらの課題との関連を見ても、国が示したように「孤独・孤立」により、「心身に有害な影響を受けている人」への支援は重要であることを改めて感じます。一方、「孤独・孤立」については、その全てをメンタルヘルスと関連した問題として捉えるべきではなく、内面的な「孤独感」の緩和や客観的な「孤立」の改善にむけては、様々な領域の知恵と工夫、そして連携が求められます。そして、こうした取り組みが「誰もが安心して暮らせる社会」の実現にもつながっていくのではないかと思われます。 (参考) ※1 「孤独・孤立対策推進法」内閣府 ※2 「社会的孤立を自覚し孤独を感じることが抑うつ症状を高める」筑波大学医学医療系 太刀川 弘和, 東洋学園大学人間科学部 相羽美幸, 弘前大学大学院保健学研究科 櫛引夏歩. 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) ※3 令和4年度「孤独・孤立の重点計画」内閣府 ※4 孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年)内閣府 ※5 コロナ禍における「ひきこもり生活」がもたらす心理的影響 斎藤環 日本労働研究雑誌 ※6 令和二年度 厚生労働省 社会福祉推進事業「行政と連携したひきこもりの地域家族会の活動に関する調査研究事業」KHJ全国ひきこもり家族会連合会 ※7 「子ども・若者」ひきこもりと孤独・孤立について  一般社団法人ひきこもりUX会議 林恭子(第3回孤独・孤立に関するフォーラム テーマ「子ども・若者」 内閣府 ※8 「コロナ禍では、孤独感が日本人の自殺念慮に強い影響を与えた」筑波大学医学医療系 太刀川 弘和, 筑波大学人文社会系 松島みどり 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) ※9 「依存症は「孤立の病」 : アディクションの対義語はコネクション」.松本俊彦.月刊福祉104 (11), 2021 ※10 「10代の薬物乱用・依存」 松本俊彦.こころの科学217 6ページ〜7ページ 若者の望まない孤独を予防する取り組み 〜若者たちのこころの居場所・つながり〜 特定非営利活動法人サンカクシャ    代表理事 荒井 佑介 「今日泊まるところがありません」「所持金が尽きてしまい困っています」20歳前後の若者たちからこのようなSOSがほぼ毎日寄せられています。私たちは、親からの暴力などで親を頼れない15歳から25歳くらいの若者の居場所作りや住まいのサポート、仕事のサポートを行うサンカクシャというNPOを運営しています。望まない孤独を予防する取り組みとして、私たちの活動を紹介しながら現場から見えることをお伝えできたらと思っています。 公的支援から取りこぼされる若者たち そもそも私たちのところになぜ若者からの相談が寄せられているのかというと、以下のような理由が挙げられます。 @若者たちは助けてくれるところを知らない。 A行政機関などにうまくつながれなかった。 B行政機関や公的機関に相談することに抵抗がある。 特に20歳前後の若者たちからの相談が多いのですが、18歳までの子どもや若者を対象とした支援施策はあるものの18歳を超えると、途端に支援が減ってしまいます。社会的養護も少しずつ対象年齢を拡大していることやこども家庭庁の発足など様々な動きはありますが、依然として18歳を超える若者への公的支援は不足しています。 また、若者たちが生活や家庭のこと、学校、仕事のことなど困った際に、行政機関に相談することができた若者もいます。その際に、無機質な役所で、親身に話しを聞いてもらえなかった場合、もう相談なんかしないと諦めてしまう若者も多くいます。若者たちも自分たちの置かれている現状がわからなかったり、うまく説明ができなかったりすることも多いため、「相談」をするという行為は若者にとってハードルが高い行為と言えます。「役所は住民票を発行してくれるくらいしか知らなかった」と、そもそも支援をもらえるという認識すらない若者も多くいます。 こうした背景の中、若者たちはSNSなどで助けてくれる人と繋がろうとします。例えば、即日入居可能なシェアハウスであったり、身分証がなくても稼げる仕事の紹介であったり、困りごとを抱え追い詰められている若者と積極的に繋がろうとする人たちもいます。SNSにはそうした情報に溢れているため、貧困ビジネスであったり、今でいう闇バイトみたいなものにつながっていく若者も多く存在します。 様々な情報の中から、SNSで見かけて法人が運営しているからと安心してサンカクシャに相談をする若者や、友人の口コミ、各種メディアに取り上げていただいた情報を見て、若者たちは私たちとつながります。 若者たちとつながる工夫 私たちは、つながることが難しいと言われる若者たちとどうしたらつながることができるか日々模索しています。今ではありがたいことに、若者支援の必要性が少しずつ認識されてきているのでテレビや新聞などのメディアに取り上げていただく機会が増えましたが、若者たちはSNSから情報を収集することが多いので、SNSでの情報発信にも最近力を入れ始めました。 若者たちは、人となりがわかったり、その人の価値観などが見えると親近感を感じ、相談をしたくなるのか、YouTuberや配信者などに悩みを相談したり、質問をしたりします。一方で行政の相談窓口などは、誰が話を聞いてくれるのかわからない、年齢の離れた価値観の違う人が話を聞いてくれる傾向にあり、敬遠する若者も少なくありません。 SNSでの相談窓口も増えていて、若者たちのニーズを少しずつキャッチできてはいますが、SNSの相談窓口によるかと思いますが、女性の利用率がどこも高い傾向にあり、男性の相談をキャッチするアプローチに関してはまだまだ工夫の余地があります。 私たちは、各種SNSを活用しながら、できるかぎりスタッフの顔や人となりがわかるような発信、サンカクシャの活動内容などが見えるような発信を心がけて、少しずつSNS経由で相談をもらえるようになってきています。最近は、相談も増えてきているため、LINE相談の初期対応に生成AIを活用するアプローチも取り入れ始めています。 若者が来たくなるような場づくり 提供する支援メニュー作りにもつながるための工夫をしています。例えば、居場所作りに関しても、ありがたいことに家具屋さんが内装の提案や家具を無償で提供していただくなどサポートをしてくれたおかげもあり、おしゃれな空間が出来上がっています。 「サンカクキチ」と名付けた居場所は、毎週4日、14時から21時まで開放し、みんなで一緒にご飯を食べたり、ゲームをしたり、床で寝転がって談笑したり、自宅のリビングのような居心地のいい場を作っています。ゲームが好きな若者のために、ゲーミングPCを8台、企業から無償で提供していただき、豪華なゲーム部屋も作っています。今では毎回、定員を超えるくらい若者の利用が増えています。 このサンカクキチでは、月に2回だけですが、「ヨルキチ」という深夜帯の居場所作りも行っています。深夜は若者が不安定になりがちで、なおかつ公的な相談窓口も閉まっています。若者たちから深夜に抱える不安などの話しを聞いて、ヨルキチの取り組みを始めました。 また、新型コロナウイルス感染拡大のタイミングで住まいを失う若者からの相談が増えたことから、「サンカクハウス」というシェアハウスの取り組みも始めました。「家出しました」「どうしても家にいたくない」といった若者からの相談が日々寄せられており、安心して過ごせる場所のニーズの高さを感じます。 そのほか、働く自信がない若者のために「サンカククエスト」といった仕事の体験の機会の提供など仕事のサポートも行い、サンカクシャ全体で450名ほどの若者を30名の有給スタッフ、50社を超える企業でサポートする体制を作っています。 私たちは、1人の若者の「これがしたい」「これがほしい」という声に耳を傾け、必要なサポートをこれまで作ってきました。若者たちが欲しているものを形にし、その情報が若者たちに伝わると自然と相談は増えるのかもしれません。 望まない孤独を予防するための「遊び」 最後に、一番大事なことをお伝えします。私たち大人や支援者は、ついつい若者たちの自立をサポートしようだとか、彼らの抱えている課題を解決しようと支援をしてしまいます。若者たちを見ていると、自立よりもまず先に、受け入れてくれる人や一緒にいてくれる人を求めていると感じます。また、生きていきたいといった意欲みたいなものを失っていることも多いため、まず元気になっていくことが必要ではないかと日々感じます。 そこで私たちは「遊び」を大切にしています。毎週のように車であちこち旅行したり、フットサルをやったり、キャンプに行ったり、卓球大会に出たり、一緒に銭湯に行ったり、スタッフのカレンダーが毎週のように楽しそうな予定で埋まっています。特におすすめはバンジージャンプです。怖いけど、勇気を持って1歩踏み出して飛べたという経験はすごく自信になるのか、バンジージャンプを飛んだ若者たちは大きく変化していきます。バンジージャンプを飛べず「プライドがボキボキに折れた」としばらく音信不通になった若者もいました。今ではすっかり元気を取り戻していますが。 真面目に彼らに寄り添うことも大切ですが、若者たちと一緒に楽しい時間を過ごす、これが彼らの一番求めていることのような気がしています。身近で関わる私たちがいつも楽しそうに生きている姿が一番彼らに影響を与えるのではないかと思っています。私たちが若者たちとの関わりを一番に楽しみ、楽しい人生を送る。こうした姿をこれからも見せていけるように、楽しくいられる工夫を積み重ね活動をもっと広げていこうと思っています。 8ページ 中野区における孤独・孤立対策の取組について 中野区地域支えあい推進部地域包括ケア推進課    課長 河村 陽子 1.中野区の人口の特徴について 中野区の人口は2024年1月1日時点で337,377人となっており、20代30代の転出入が多いことがひとつの特徴となっています。また、65歳以上の高齢者人口は、全人口比の19.85%と微減傾向にありますが、75歳以上の後期高齢者人口は高齢者人口比56.8%と増加傾向になっています。 今後の区の将来推計人口では、令和17年頃に約35.2万人でピークを迎え、その後は減少に転じると予測されています。令和2年の老年人口(65歳〜)割合は20.2%だったものの、令和32年には3人に1人が高齢者となり、年少人口(0〜14歳)、生産年齢人口(15〜64歳)の人口割合は緩やかに減少となると予測されています。(図参照) 2.データで分かる孤独・孤立 区では、「令和2年度(2020年度)暮らしの状況と意識に関する調査」を、15歳以上64歳以下の区民10,000人を無作為に抽出し実施しました。そこでは、「孤立していると感じる度合い」や「心配事や愚痴を聞いてくれる相手」「誰にも相談しない理由」について調査を行いました。 3. 区のこれまでの地域包括ケアシステムについて 区では団塊の世代が後期高齢者となる令和7年を見据え、誰もが住み慣れた中野区で尊厳を持って自分らしく暮らし続けられるよう、中野区版の地域包括ケアシステムの構築を目指してきました。特に、地域の保健福祉の相談拠点である「すこやか福祉センター」と、区民の気軽な相談窓口である「区民活動センター」の職員が「アウトリーチチーム」を組み、地域の相談支援体制の整備に取り組んできています。 その後、新型コロナウイルス感染拡大等により、地域包括ケアの多くの取組も中止・縮小・延期などを余儀なくされ、地域活動の再開と継続が、大きな課題となりました。社会情勢は大きく変化し、社会的孤立や孤独に苦しむ人が増え、以前には顕在化していなかった地域での課題や、新たな課題を抱える人に対する支援が求められています。 4.今後の孤独・孤立対策について このような状況を踏まえ、団塊ジュニア世代が高齢者となる2040年に向けて、更に地域包括ケアシステムを深化させ、孤独・孤立対策に取り組む必要があります。取組のひとつには、孤独・孤立対策のプラットフォーム化があります。これまで、区では地域包括ケアシステムを構築するために、町会や民生委員、医師会、歯科医師会、薬剤師会、社会福祉協議会や、警察や消防署等といった様々な地域団体との連携を図ってきました。これまでの連携を継続しつつ、更に地域包括ケアを進めるためには、民間企業・NPO法人等との連携を強化し、孤独・孤立対策のプラットフォーム化をすすめる必要があります。区では今年1月地域包括ケア推進パートナーシップ協定(NIC+)を新たに創設し、地域包括ケアに資する取組を民間企業等と進めています。そういった取組をとおして、区の孤独・孤立対策を進めたいと考えています。 東京都 こころの健康だより No.141 令和6年10月発行 発行 ◆東京都立中部総合精神保健福祉センター広報研修担当  〒156-0057 世田谷区上北沢二丁目1番7号 電話 03-3302-7704 FAX 03-3302-7839 ◆東京都立精神保健福祉センター調査担当  〒110-0004 台東区下谷一丁目1番3号 電話 03-3844-2210 FAX 03-3844-2213 ◆東京都立多摩総合精神保健福祉センター広報計画担当  〒206-0036 多摩市中沢二丁目1番地3 電話 042-376-6580 FAX 042-376-6885 登録番号(5)14 (次号は令和7年2月発行予定です)